第6話
くるみさんは良いひとなんだな、と思う。わたしとは正反対の性格で、うまく話すこともできないけれど。
黙々とお皿を拭いて片付けをしていると、いつの間にかキッチンはしんと静まり返っていた。視線を感じてふきんから顔を上げると、くるみさんが神妙な顔をしてこちらをじっと観察している。
「……?」
「……あの、さ。まどちゃん、前に――」
いつになく真剣な目で動きを制されて、わたしは瞬きひとつできない。
その時、緊張した空気には不似合いなおちゃらけたメロディがどこかから流れてきた。はっとした顔をしたくるみさんは、エプロンの下をごそごそと探り、流行りのケースに覆われたスマホを取り出した。
「……っもしもし、僕だけど。クルミ」
右耳にスマホをあてながら、左手を顔の前に持ってきてゴメン、とわたしに目で訴えてくる。どうしていいかわからずに頷くと、もう一度ゴメンという顔をして頭を下げ、開きっぱなしのドアからバックヤードに出ていった。
「電話……?」
バイト中なのに、迷うそぶりも見せずに電話に出た。そういえばマナーモードにもしていなかった。確か採用が決まったときに、就業時間中はスマホはロッカーに置いておくように店長から言われたはずだ。
下の名前で電話に出ていたし、親しい間柄なのかな。もしかしたらカノジョとか。
「不真面目……」
やっぱりわたしにはよくわからない人だな、と思いながら、残っていたお皿をひとりで片付けた。
*
一番忙しい時間帯、土曜のランチが終わり、くるみさんは先に退勤していった。いったんお客さんが引いたタイミングで、さえこさんがキッチンに入ってくる。額にはうっすらと汗をかいていた。
「毎週この時間になると、終わったーって気持ちになるよね。ピークを過ぎると気が抜けちゃって」
「あ、それ、ちょっとわかります」
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