第44話

「……え?」


おっと。母さんの眉間にシワが寄った。


「そこに受かったら、バンドやることにする」


「マキ! 女の子がそんな野蛮な音楽やっちゃいけません!」


「野蛮、って。そんなんじゃないよ」


母さんのロックに対する偏見に、思わず笑ってしまう。


誰より純粋に音楽に向き合う、あの人たちのことを見たら、母さんだってそんなふうには言えないだろう。


それにここで退いたら、あたしはその思いを裏切ることになる。


「あたしはバンドが好きなの。それだけは、絶対に譲れないよ」


――音楽には、言葉には、嘘をつかない。


それは、正しい言葉を使えなくて、人を傷つけてしまっても、あたしをバンドに誘ってくれた野川さんへの、精一杯の誠意だ。


「もう決めたんだ」


「マキ、」


母さんに逆らう、とか、そんなんじゃない。まして逃げるなんて尚更。


ただ、あたしの決意を聞いてもらいたかっただけ。


そして、それを伝えるには、音楽じゃなくて言葉でなければいけなかった。


まっすぐ見据えた母さんの目には困惑の色が浮かんでいたけれど。


そこに、前のような拒絶の色はもう見えなかった。



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