第40話

「……なんで笑ってるんですか」


「だって、このメールを読んだら、それだけでもういいやって、思えたんだよ」


……言われたことが、のみこめない。


「俺たちの演奏を聞いた、蒔子ちゃんの感想は……確かに、歌詞のことは一言も書いてなかったけど。


でも、他の部分だけで、わかったんだよ。言いたいことは全部伝わったんだ、って」






野川さんの言葉が、頭の中を駆け巡った。



そうか――あのメールを送った日のことを思い出す。


初めてライブを観に行って、野川さんたちの歌をきいて。


あのとき、あのメロディーラインに、甘く、苦しく――どうしようもなく、胸が詰まったのだ。


それをどうやって伝えようかと、必死で言葉をさがした。


書いては、消して。もっと、よく伝わる言葉を考えて。


そうやって、思いの丈を一生懸命につづったメールだったのだ、あれは。


そうして、それがちゃんと伝わって、野川さんが“ありがとう”と笑ってくれたことが、あたしは何より嬉しかったのだ。


「音楽は歌詞だけじゃないってこと……きっと、音楽であるからには音楽が大事で、伝えたいことをどうやって、言葉じゃなく伝えるのか……


それが大事なんだって、蒔子ちゃんは教えてくれたんだよ」


――それを聞いて。


あたしが言いたかったことはそれなんだって、ようやく気がついた。


あんな独りよがりで語調が強いだけの、拙い言葉なんかじゃなくて、あたしはそういう、やわらかな言葉を選ぶべきだったのだ。

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