第39話

スタジオの隅に立てかけてあったパイプ椅子を二脚、壁づたいに並べた。


そろそろと腰を下ろして、右にいる野川さんを横目でうかがった、


……つもりが、ばっちり目が合った。


あたしはいよいよ、逃げられないらしい。


野川さんはふう、と息を吐いて、前を見た。


「歌詞を書いてるのってさ、俺なんだよね」


「……はい」


思った通りだった。


「それで……俺たちは、まず先に歌詞を書いて、そこから曲を作るからさ。やっぱり、一番大事なのは、歌詞だと思ってたわけ」


……そう、だったのか。


それならあたしは、ずいぶん酷なことを言ったことになる。


「だから蒔子ちゃんにああやって言われたことは、正直、こたえたよ」


ほら。あたしはやっぱり、この人を傷つけていた。


「――でもね」




突如。


うつむいたあたしの目の前に突きつけられた白い画面に、目を瞬いた。


「へ?」


間抜けな声を出したあたしに、野川さんが笑う。


「蒔子ちゃんがくれた、最初のメール」


「……うわ、やめてください」


自分が送ったメールを読み返すほど恥ずかしいことってない。


画面を直視できずに顔を背けた先には、


――穏やかに微笑む、野川さん。

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