第34話
「……不思議なこと考えるね」
「まあね」
――ふと。
はじめて聴いた、野川さんの歌声が、脳裏にひらめいた。
「――歌詞、かなあ」
そう言った紗奈の声は、ふわふわとした感覚で頭に響いて。
「だって歌詞を見たら、メロディが浮かんでくるでしょ」
「……それはずるいんじゃない?」
「どっちもあってその曲だもん。歌詞も、メロディも」
だけど紗奈のその答えが、きっと真実だ。
いつだって、あたしは言葉を探してる。
たぶん、もうずっと前――ロックに出会う前から、ずっと。
だけどあの日、あの夜。
はじめてロックを聴いたとき。あたしは確かに思ったのだ。
“もう言葉なんか要らない”って。
それは比喩でもなんでもなくて、
あたしがずっとずっと、探し続けていたものが全部ここにあるんだって、
言葉にしようとすると息が詰まってしまうような感情はあたしだけのものじゃないって、
――ああそうか、
この胸の隙間を埋めてくれるのは音楽なんだって、
確かに、そう思えたのだ。
そして。
あの日――兄貴に連れられて、はじめてBLUEに行ったあのとき。
野川さんの歌を聴いて、あたしは同じことを思ったんじゃ、なかったのか。
――そのときあたしの心を動かしたのは、言葉か、それとも旋律か。
* * *
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