第26話
「はい……なんですか?」
「これ、演奏についてはずいぶん書いてくれてるけど、歌詞は、どう思った?」
――ああ、
「歌詞ですか。聞いてませんでした」
「ああそうか、聞いてなかっ……た……、えっ?」
ぴしり。
なぜだかその時、スタジオの空気が凍った気がした。
「……蒔子ちゃん?」
「あたし、歌詞には興味なくて。音楽はメロディーライン、それに楽器の音でしょう」
一息にそう言い切ったあたしの目に映ったのは、
きょとんとした竹本さん、星野さんに。
――なぜか悲しそうな、野川さん。
それで、あたしは悟った。
このバンドで作詞をやっているのは、野川さんなんだって。
もともと、察しは悪くないほうだ。人の機微にはよく気づく。
そうして。
ああ、あたしは、――野川さんを傷つけたんだ、と。
どこか意識の遠いところで、そう思った。
あんなに時間をかけて、あんなに言葉のひとつひとつに気を配ってメールを打ったのに。こんなんで人を傷つけちゃ駄目じゃん、あたし。
正面の、目に見えて傷ついている野川さんにかける言葉を探したけれど、見つからない。
あたしはいつでも、言葉を――本当のことを寸分の狂いもなく伝えるたった一つの言葉を、探し続けていて。
そして、こんなときに限って、それは見つからないのだ。
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