第27話
中途半端な、思ってもいない言葉を吐き出すことはできなかった。
野川さんにも。自分の音楽に対する考え方にも。あたしは嘘がつけない、いや、嘘なんか絶対、つきたくないのだ。
お母さんに反抗してまで、秘密で兄貴とライブを観に来てまで、あたしが捨て切れない、音楽への、あたしなりの愛。
「あたしは歌詞には興味が持てないし、……楽器の音にしか興味ないです」
それでも。
「それでも、野川さん達のバンドが好きだと思ったから、メールを送ったんです。
……読んでいただけて、良かったです」
日の傾きだした頃、あたしはお礼を言って、"BLUE"をあとにした。
* * *
「マキ、お前今日どこ行ってた?」
どうやらあたしは絶望的に嘘が下手らしい。なぜバレたのか、まったくもってわからない。
「一人で行くなんて危ないだろ! 母さんに言わないならせめて俺に一言言って行け!」
「だって、野川さんからのお誘いだったし…」
兄貴は天井を仰いだ。呆れて物も言えないようだ。
――野川さん。
自分で言った、その人の名前に、否応なく気分が沈んでいく。
それは思いっ切り顔に出たようで、兄貴は目をぱちくりさせた。止めようもない、ため息がこぼれる。
「どうした、マキ? 幸せが逃げるぞ」
「いいよ、幸せになんか、なれなくたって」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます