第20話

* * *



あのメールを送った翌日、野川さんから返信があった。


当たり障りのない内容だったけれど、人のよさそうなあの笑みが思い出されるような丁寧な文体だった。


それから、数日後。


あたしは文化祭のこともそろそろ真面目に考えないと、とついに観念した。


「マキちゃん、準備できた?」


放課後。その日、約一か月ぶりに部活に出る約束を紗奈としていた。紗奈はにこにこ笑っている。


あたしが部活に行くのが、なんでそんなに嬉しいんだか。


「ちょっと待って」


そう言って、携帯の電源を入れる。


時々、母さんからメールが入っていることがあって、ほったらかすと後が怖い。


――メール、新着1件。


案の定。お遣いかなあ、あたし今日お金そんなに持ってないんだけど。




…………………


FROM:野川さん



今日の午後もし暇だったらBLUEに来ない?


…………………





――それが目に飛び込んできたとき、目の前の景色が色を変え、一瞬空気が止まった。


「ごめん紗奈。楽譜忘れたから明日にする」


「えっ? でも『軍隊』ならたぶん部室に、」


「――また明日!」


ごめん紗奈、と心の中で手を合わせる。


チャックが開いたままのカバンを肩に引っかけて、あたしは教室を飛び出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る