第14話

野川さんは、ライブ中と同じはにかんだ笑みを浮かべる。


「……ああ、飛ばしたやつか。いいよ、持っといて」


……持っといて、って。いやいやいや。


あたしは野川さんの手に、その黒いピックを押し付けた。


「あたしじゃ、使えないので。野川さんが持っててください」


「……そっか。ありがとう」


野川さんは照れたように笑って、ピックをジーンズのポケットにしまった。


そんなとこに入れといたら洗濯しちゃいそうだと思ったけど、まあいいや。


「で、蒔子ちゃん。ライブはどうだった?」


楽しそうな野川さんの様子に、少し緊張して息を吸った。


「……すごく……」


すごく、すごく、すごく。


「どきどきしました。生演奏って、すごいですね」


「マキ。さっきからすごいすごいって、そればっかり、」


「兄ちゃんうるさい。明日、……明日くらいになれば、ちゃんと言えそうなの! 今はまだ消化できてないだけだし!」


兄貴の背中をばしんと叩くと、野川さんはポカンとして、一瞬のち笑い出した。


「いいなあ、蒔子ちゃん」


「……へ、何が」


っていうかさ。あれだ。あたし、今どんどん自分の学校の印象下げてる。お嬢様のイメージなんか微塵もなかった。


やっぱり桜町なんて言うべきじゃなかったよ、と兄貴を睨む。兄ちゃんのバカ野郎。

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