第13話

「あ、いや、軽音はやってなくて……えーと、」


「桜町の女子部です」


と。


事もなげに兄貴が言うのにぎょっとして固まってしまった。


こいつ。あたしがちょっとためらったってのに。


すると野川さんもぎょっとしたように目を見開いた。


ほら、こうなるって。


「え、桜町? マジで?」


「マジです。軽音部、は……学校にはないです」


当たり前だ。お嬢様にバンドやらせる学校がどこにある。


「まあ、そうだろな」


野川さんはきまりが悪そうに頭を掻いた。


「じゃあ、今日みたいなバンドとかは興味ないよな…せっかく来てくれたのに……」


「あ、いや、ロックは好きです!」


そこだけは、勘違いされたら困るから、慌てて言葉を遮った。


すぐに好きなバンドを列挙すると、野川さんはきょとんとして、それからけらけら笑い出した。


「なんだ、本当に好きなんだ」


「はい!」


兄貴はぽん、とあたしの頭を叩いた。


「うちの母親がロックが嫌いなんで、今日は秘密で来たんです。妹が行きたいっていうんで連れてきました」


「それは、お前も蒔子ちゃんも大変だなあ」


野川さんのまとう空気は、どこかふわふわとしていて、あたたかく心地よい。


と、そこで、ピックのことを思い出した。


「あの、野川さん。これ……」

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