第12話

と。


「――荒井?」


「先輩、お久しぶりです」


ステージのほうから出てきた背の高い男の人に、兄貴が軽く頭を下げた。あたしもそれに倣う。


そして、その人の顔を見て、





―――あれ?





その人も驚いたようにあたしを見た。


「なんだよ、この子お前の彼女?」


……いやいや。違うから。っていうか……


そうだ。やっぱり。


この人、最後に演奏したバンドの、ギターボーカルだ。


目が合った、あの人。


「違いますよ。こいつは妹です」


兄貴は苦笑いしながら、そう言った。


その人は、へえ、と言ってあたしをまじまじと観察した。


その視線がなんだか居心地が悪く感じて、柄にもなくおろおろしてしまう。


「先輩」


見かねた兄貴が声をかける。


「見過ぎですよ、こいつ、困ってます」


「ああ、……悪い」


その人はポリポリと頭を掻いた。


「はじめまして。野川っていいます。ここのライブハウスの責任者なんだ」


「えと、兄がお世話になってます。荒井蒔子です」


「蒔子ちゃんか。今日は来てくれてありがとう」


野川さんは人のよさそうな笑みを浮かべると、兄貴を小突いた。


「ずいぶん可愛い妹さんがいたもんだなあ。高校生?」


可愛いってのは引っかかるけど、そこは無視して答えた。


「高2です」


「軽音やってるの? どこの学校?」

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