第11話

こうして、あたしがステージから目を逸らすことなんて、片時もなく。


ようやく我に返ったのは、呆れ顔の兄貴に頭を小突かれた時だった。


「イテ、」


「終わったぞー、マキ。どうだった、ライブは」


……なんというか。


「すごかった」


「…なんだよ、語彙力ないな。もっとなんか言うことないのかよ、具体的に」


……だって。だってさ。


「とにかく、すごかったんだもん……」


ライブ前には当たり前だったいろいろな感覚が、なかなか戻ってこない。今自分がここに立っていることさえ、実感が湧かないくらいだ。


衝撃の連続で、思考が全然、追いつかない。


しばらくして、握りしめたままだった黒いピックの存在に、ようやく現実を取り戻した。


……どうしよう、これ。あの人に、ちゃんと返してあげたほうがいいんだろうけど。


といっても、どこに行けば会えるのか見当もつかない。もしかしたら、もう帰ってしまったかもしれないし。


「マキ、先輩がこっちに来るってさ」


「あー、うん……」


がやがやしていた空間は徐々に静けさを取り戻しつつあった。


ライブ前に見たあの派手な女子高生たちの姿ももう見えない。


「ねえ、兄ちゃん」


「ん?」


「やっぱり私服でよかったね。あたし制服で来てたら、すごい場違い」


「“お嬢様学校”、だもんな」


からからと笑う兄貴の手には、あたしの制服が入ったカバン。


まったくだ。あれを着てるといちいち、周囲からの視線が痛い。

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