第10話

最後に登場したのは、大学生にしては少し大人びた感じの男の人のスリーピースで、ギターボーカルの人は軽く会釈して、マイクに口を近づけた。


「今日はBLUEの一周年記念イベントに来てくれて、ありがとう」


そして後ろを向くと、ドラムに目で合図して、ベースと同時にギターを掻き鳴らした。





始まってすぐ、さっきまでのバンドとはレベルが違う、と思った。演奏の迫力、くっきり浮かび上がる旋律に、その歌声も、そのすべてが。


それに、――たぶん、この人たちはコピーバンドじゃない。


聴いたことのないこの曲は、おそらくオリジナルだ。


ちりちりと胸を焦がすようなメロディーラインに、なぜだか甘く息が詰まった。





――――この感覚。





食い入るようにそのギターを見つめて、ふと視線を上げると、ボーカルの男の人と目が合った気がした。


と。


何かがあたしの目の前に飛んできた。手を伸ばして受け止めたそれは、小さな黒いピック。


顔を上げると、またばっちりと目が合った。その人はあたしの手の中を見て恥ずかしそうに笑うと、マイクスタンドから素早く別のピックを引き抜いた。


その一瞬後には、もうその人はあたしを見ていなくて。あたしはなぜだか、ちょっぴり寂しくなった。


この胸の隙間に、その人の甘い歌声が染み渡るようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る