第9話

実際のところ、その瞬間に客席がどれくらい静かになったのかはわからない。


だけど初めてのライブにまだ緊張していたあたしに、それは無音に聞こえた。


視覚も、音も、すべて遮断された真っ暗な箱の中にいるようだった。





――そこに差し込む、一筋の黄色いスポットライト。


一人の女の子の姿が浮かび上がる。


ドラムが四つ、カウントをとった次の瞬間、ギターの音と同時にステージ全体が白く照らし出された。


客席の温度がワッと急上昇する。


光を浴びた女の子はニカッと笑い、バンド名を叫んで、歌い出した。





―――すごい。





ほとんど無意識にTシャツの裾を握りしめて、あたしはただ、ひたすら圧倒されていた。


初めて聴く生バンドの音は、聴き慣れたヘッドホンの音と全然違う。


ライブハウス全体がその音に揺れている。


歌も、ギターもベースもドラムも、全部があたしの体に響いている。


それは、今までに感じたことのない、音との一体感だった。




曲が終わり、拍手の音がしずまると、ボーカルの女の子がメンバーの名前を呼んで、順に紹介していった。女の子4人のこのバンドは、地元の大学生バンドらしい。


その後も何組かのバンドが入れ替わり立ち替わり現れて演奏していった。

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