第8話

薄暗いオレンジの照明の中、そこにはまばらに人が集まり出していた。


もっと大きな、コンサートホールみたいなのを想像していたから、ちょっと拍子抜けした。客席、なんてものはなくて、どうやら立ち見らしい。


そこは、学校の教室を少し広くしたくらいの、意外に狭い空間だった。


客席(席じゃないけど)より一段、高くなったそこが、バンドのステージだ。


照明は青く、暗く、ドラムセットにマイクスタンド、それにアンプを照らしている。


……バンドと、お客さんと。予想以上に距離がない。


初めての光景に目を奪われていると、後ろからグイッと肩を押された。


「ちょっと、通して」


「あ、すみません」


明らかに染めたとわかる茶髪の女の子たちが入ってきて、あたしは入口の脇に避けた。


スカートがありえないくらい短いけど、あれは紺のプリーツスカートだ。あたしと同年代、高校生。


うちの高校には絶対いない部類の女子高生たちに、なんだか緊張してしまう。


……って、違うか。あたしみたいなのがココにいるのが、普通じゃないんだよな。


「前のほうに行ってみる?」


「うん、」


兄貴のあとについて、ステージ前までたどり着く。


後ろを見ると、客が次々に入ってきて、徐々に混み始めていた。


「そろそろかな」


兄貴が呟いたその直後、パッと目の前が真っ暗になる。


室内のざわめきが、すうっと引いていって、空気がピンと張りつめた。


――開演だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る