第7話

今まで聞いたことのなかったその激しい音楽に、たちまちあたしは心を奪われてしまった。


もっとも、夜な夜な母さんの目をかいくぐってテレビを見ようとしたせいで、このことはすぐにバレた。母さんが言うには、ロックなんて騒々しくて品のない音楽は、うちの子にふさわしくない、とかなんとか。


こってり叱られたあたしは、むくれて部屋に閉じこもった。


その夜部屋にやって来た兄貴は、あの黒くて大きなヘッドホンをあたしにくれたのだった。





「――おーい、マキ」


「……へ?」


ぼんやり回想に浸っていたら、突然意識を引き戻された。兄貴が前方を指でさす。


「着いたぞ」


え。


「もしかして、ここ?」


駅から少し離れた大通りに面したこぢんまりしたビル。




“BLUE”




青地に白い文字が染め抜かれたようなそれが、ライブハウスの看板らしい。


「入るぞ」


「え、うん」


急に緊張でドキドキ言い出す胸をおさえて、兄貴の背中を追う。


「二人です」


兄貴はスマートにチケットを二枚買うと、もたもたするあたしの手を引いてエレベーターに乗り込んだ。


ライブが行われるのは三階らしい。息をつく暇もなくエレベーターが止まり、ドアが開く。

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