第5話

「そうだ。マキ」


「ん?」


「ライブハウス、行きたくない?」


「は? 何言ってんの?」


そんなの、行きたいに決まってる。あたしはバンドが好きなんだから。


ライブハウスに行きたいなんて言った日には母さんは間違いなく卒倒するだろうけど、生演奏のバンドが聴きたくないなんて言ったら嘘になる。


兄貴はミステリアスに、ニヤリと笑った。


「今度連れてってやろうか」


「どういうこと? 本気で言ってる?」


母さんは今、お風呂の中だから、聞こえているはずもないけれど、あたしは兄貴に詰め寄った。


「高校の先輩がやってるライブハウス。見に来ないかって誘われたから、マキもどうかと思って」


「……い、」


「い?」


「……行きたい……!」


母さんに対して後ろめたさはある。でも、これだけは抑えられそうになかった。


兄貴はそんなあたしをからかうように笑う。


「よし。母さんには内緒な」


「……ねえ、ホントにいいの?」


「嘘はつかない」


「でも、母さんにバレたら、」


「バレないって。それにマキだって、たまには羽を伸ばしたほうがいい」


兄貴って本当、あたしに理解がある。


「兄ちゃんありがと! 大好き! 愛してる!」


「ハイハイ、分かった分かった」


「――なに、騒いでるの」


……げ。母さんだ。


「なんでもなーい」


「こら、マキ! お兄ちゃんの邪魔しちゃダメでしょう!」


ほらね。


「邪魔なんかしてないよ」


つくづく、母さんはあたしに理解がない。

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