第4話

* * *



「ねえ、兄ちゃん」


「ん?」


「大学って、楽しいの?」


『進路希望調査』と書かれた白い紙を、人さし指と親指でつまんで、ぴらぴらと振ってみる。


こんな薄っぺらい紙に、将来なんか決められてたまるか。


「楽しいよ。高校よりずっと自由だし」


兄貴は読んでいた本をソファの横に置いて、あたしのほうに顔を向けた。


「マキお前、ひょっとして大学にも行かない気?」


「だって、たいした理由もなく通うにはお金がかかりすぎるでしょ」


「マキってそういうとこ変に真面目だよなあ…だけど、他にやりたいことがあるわけでもないんだろ?」


「あったらこんな紙に悩まされてないよ」


もう一度、紙をぴらっと振ってみせると、兄貴は笑った。


「マキはちょっと変わってるよな」


「え、何が?」


「勉強だって結構できるのに、大学行くかどうかで迷うなんてさ。マキの高校で、進学しない人なんかいないんじゃないの?」


「みんなが行くから、とか、そんな理由で大学行くなんて不誠実じゃん」


あたしは誰に対しても、いつも誠実でありたい。家族にも、友達にも、そして知らない人に対しても。


そのためには、自分にだって嘘をつきたくない。だからこんなときに、グダグダと悩む羽目になるんだけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る