第181話 弾幕ゲーム
相手パーティの最後の一人、両手に短剣を持った小柄な女性が俺の間合いに入ってくる。
攻撃を仕掛けてくるものだと思って身構えたんだけど、彼女はそれ以上踏み込んでこなかった。
「…………」
「…………」
一秒にも満たない短い時間だったが、無言で見つめ合う気まずい空気が生じる。
なんだ、何がしたいんだと戸惑っていると、横合いからフルメイルが襲ってきた。
上段からの振り下ろしを身を捻ることで躱す。
追撃の気配を察し、俺は孔雀になったつもりでばさっ! とマントを翻す。
フルメイルが追撃をキャンセルして防御する構えになり、フルメイルの攻撃に合わせようとしていた大盾と槍使いの動きも止まる。
その隙に飛び退るようにして彼らから距離を取った。
(危ねぇ……)
ハッタリでなんとか切り抜けたものの、状況が好転したわけではなかった。
フルメイルが主力となり、大盾と槍使いがその動きに合わせる。
そして短剣二刀流の女性が、俺の周りをチョロチョロとする。
”あの子はさっきから何をやってるんや”
”大型犬のじゃれ合いに必死に混ざろうとしてる小型犬みたいで可愛い”
”そんな牧歌的な状況じゃないやろ。殺し合ってんのに”
”殺し『合ってる』ならまだマシなんやが、ジローが一方的に殺されそうになってるんだよなぁ……”
”こいつらはダンジョンエラーが怖くないんか”
”ダンジョンエラーよりジローの方が脅威度高いって判断されたんちゃう?”
”ありえそう”
小柄な女性は最初、俺の間合いに半歩踏み込んでくるぐらいだったのに、どんどん距離が近くなっていって、今や手を伸ばせば触れられそうなところまで接近してくる。
攻撃をしてくるわけじゃないんだけど……。
なんだかパーソナルスペースを侵されてるみたいですごく嫌だ。
他にも座席がたくさん空いているのに、わざわざおっさんが隣に腰掛けてきた時の女性の心境が、こんな感じなのではなかろうか。
それに他の三人に関しては、多少の攻撃なら防いでくれるだろうって安心感がある。
だから防戦一方にならず、相手の攻撃を妨害するために剣を振るうこともできた。
でも彼女に関しては、ちょっとした攻撃で傷つけてしまいそうで怖かった。
一番危険なのは間違いなくフルメイルだけど、一番厄介なのはある意味で彼女かもしれない。
攻撃をひたすら避ける弾幕ゲームでもしている気持ちになってくる。
相手は次第に俺の立ち回りに適応し始め、攻撃が少しずつ鋭くなっていく。
嫌なタイミング、嫌な角度、嫌な連携——
一撃で致命傷を負いかねないのはフルメイルの攻撃で、当然一番警戒していた。
だからフルメイルの攻撃に関しては今のところ完璧に防げているのだけど、その弊害として大盾と槍使いへの対処が少し疎かになってしまう。
徐々に攻撃が掠ることが増え、少なからず出血もする。
ダメージの蓄積に加え、この人数差だ。
隙を見てポーションを飲んでいるものの、体力も精神力も俺の方が相手よりも早く削れていく。
今はまだ集中を保てているが、それも時間の問題だと感覚からわかる。
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