第180話 集団戦

 フルメイルが大剣を手に、ゆっくりと間合いを詰めてくる。

 所作の一つ一つに無駄がなく、穏やかに感じるほどだ。

 力を誇示することも、威嚇するような振る舞いも一切ない。


 だからこそ気迫が伝わってくる。

 敵国が崇める神とか、世界に混沌をもたらした元凶とかに向けるような、畏敬にも似た強い敵意と覚悟を感じる。


 本気だ。

 本気で俺を殺すつもりだ。

 俺は仲良くしたかっただけなのに。


「……どうしてこうなった?」


”どうもこうもあるか”

”全面的にお前が悪い”

”複雑な世の中で、ここまで誰のせいかはっきりしてるのも珍しいな”

”それでも俺は応援するぞ! がんばれジロー!”

”逆張りで草”

”視聴者の応援が逆張り呼ばわりされる配信者こいつくらいやろ”


 五メートルは離れていた。

 その距離をフルメイルは踏み込み一つでゼロにする。

 ごつい鎧を着て馬鹿でかい剣を持っているというのに、槍使いと同等か、下手をしたらそれ以上の疾さだった。

 横薙ぎに振るわれた大剣を、剣の腹で防ぐ。


 だが衝撃を受け切ることはできなくて、俺は生まれて初めてホームランボールの気持ちを味わう。

 空中で体を捻り、遠く離れた壁に着地する。

 その時にはフルメイルが追撃を仕掛けてきていた。

 跳躍し、弾丸のような速度で迫ってくる。


 体勢が悪く、躱すのはまず無理だ。

 かといって跳躍の勢いも乗った一撃をまともに防げば、ただでは済まないだろう。

 だが動きが制限されているのは空中にいる向こうも同じ。

 俺は全力で壁を蹴って、剣を振りかぶるフルメイル目掛けて突っ込んだ。


「ぐっ!」


 凄まじい衝撃に頭がぐらつく。

 フルメイル相手に正面衝突なんてするもんじゃない。

 でもおかげで剣での攻撃を阻止することができた。


 俺とフルメイルは空中で揉み合いになる。

 少しでも距離が開けば剣を振り回してくるだろう。

 大剣を持つ相手に、この距離はむしろ安全圏だ。

 フルメイルは振り払おうとしてくるが、俺は触手になったつもりで必死にしがみついた。


 フルメイルは大剣から右手を離し、自分の腰の辺りにまで持っていく。

 短刀でも隠し持っているのだと思い、警戒して反射的にしがみつく力が緩む。

 だがそれはフェイクだった。

 何かを掴もうとしていたはずのフルメイルの右手は、そのままキツく握られコンパクトなボディブローを叩き込んでくる。


「がはっ!」


 予想していなかった攻撃に肺の中の空気を全部吐き出してしまう。

 俺の体はくの字に折れ、その空いたスペースにフルメイルは右膝を捩じ込んでくる。

 そして折り畳んだ体を伸ばす力を使って、俺を弾き飛ばした。


 距離を離されたなら仕方がない。

 地面をバウンドしながら、バックステップでさらに距離を取ろうとした時だ。

 ぞわりと、うなじに寒気が走る。


 身を屈めて、背後からの大盾の男の攻撃を躱す。

 それから槍使いの追撃も剣で弾いた。


 フルメイルは俺を闇雲に吹き飛ばしたわけじゃなく、仲間との連携も意識しているようだ。

 あれだけずば抜けた戦闘力を持ちながら、個人主義に走らないなんて……。

 そのことが一番恐ろしい。


”な、何あの動き……?”

”全身鎧を着た人間の速さじゃねえ”

”やっば”

”あれが相手の主力か。ちょっとマジで洒落にならん強さやん”

”考えてみたら、あの異形の神を倒したパーティやもんな。別格が一人くらい混じってても不思議じゃないか”

”もう小型のガンダムやん”

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