第165話 ゴリ押しのヤンヤンつけボー
くねくねが触手のような腕を振るう。
(——速い)
純粋な速度もさることながら、予備動作がほとんどないのだ。
三割り増しで速く感じる。
でも距離が離れていることもあって、問題なく対処できる範囲だ。
抜刀しようと腰に手を伸ばし、
「あっ」
剣を背負っていることを思い出す。
つい体に染み付いた動きが出てしまった。
今から背中に手を伸ばす余裕はない。
それどころか、躱すことも——
「ふんぬらばっ」
全力の左フックを叩き込む。
派手な音と共にくねくねの攻撃が逸れ、ことなきを得る。
じんじんと痛む拳をさすりながら、バックステップで距離を取った。
「……ふっ、なかなかやるな」
”相手を称賛することで自分のミスをなかったことにしようとしてて草”
”トラックが正面衝突したみたいな衝撃音やったぞ……”
”人から出ていい音じゃない”
満を持して抜刀し、追撃の触手を切り払った。
鈍い手応え。
触手を弾いただけで、切断することはできなかった。
「……マジか」
殴った感触からしても、純粋な強度はボスガイアの外骨格の方が上だろう。
でも靭性があることでボスガイアを遥かに上回る防御力を誇っているのだ。
くねくねはその長いリーチを活かして攻撃してくる。
その一撃一撃が重かった。
まともに食らえばアバラ程度じゃ済まないだろう。
「厄介だな……」
一目見た時から、いや異形の神の神殿を出たところでニアミスした時からわかっていたけれど、俺は改めて実感する。
——逃げるか?
そう考えもしたけれど、すぐに打ち消した。
背中を向けていいような相手じゃない。
くねくねの連撃をいなしながら俺は思考を巡らせる。
生半可な攻撃は通じない。
なら、簡単な話だ。
生半可じゃない攻撃をすればいい。
迫ってくる相手の腕を、これまでと同じように剣で弾く——ふりをして、途中で斬撃をキャンセルした。
身を屈め、紙一重で躱すと同時に距離を詰めた。
タイミングがずれ、澱みのなかった連撃に乱れが生じる。
その隙を逃さず、くねくねの腕を切り落とした。
腕がくるくると放物線を描きながら飛んでいく。
細長かった腕は視界の端で、無重力下での液体のように球に近い形になる。
そのまま地面に落下し——直後、バネ仕掛けの機械のように飛びかかってきた。
本体の攻撃をいなしつつ、迫りくる腕だった塊をさらに両断する。
”なんでその不意打ちに問題なく対応できんねん……”
”速すぎて目で追うのがやっとや”
”肉眼だと何が起きてるのかもわからんのやろな、きっと”
”そうなん?”
”人間の目よりも高性能なドローンのレンズ越しやからギリ認識できてるだけや”
”補正もかなりされてるらしいで”
”あ、そうだったんか。ジローの動きについていけてる俺スゲーとか思ってたわ……”
”しょぼい俺スゲーやな”
だがそれもダメージには繋がらない。
腕だった二つの塊は、幼子が母親の胸に飛びつくようにして本体に戻ってしまったのだ。
切り落とした腕は当たり前のように復活している。
”ああ、そういうタイプか……”
”一番厄介なやつやん”
”ジローが緊張するほど強くて、しかもダメージ無効持ちとか反則やろ”
それから何度も攻撃を与えたけれど、結果は同じだった。
胴体を両断しても、首を落としても、両手両足を同時にバラバラにしても、すぐに何事もなかったように元に戻ってしまう。
あえて切断せず皮一枚が残るようにもしてみたけれど、それも意味がなかった。
「不死身かよ……」
端から見ていれば、俺が優勢に思えるかもしれない。
一方的に攻撃を与えているわけだし。
でも実情は違う。
くねくねはその不死身性ゆえか、防御がかなりザルなのだ。
その分攻撃が苛烈で、一発でもまともに食らえば窮地に追いやられるだろう。
そもそもダメージが入っていないのだから、攻撃を与えていると言っていいのかも微妙なところだ。
「……斬撃が効かないなら」
俺は剣を一度鞘に収める。
それと同時に鞘を体に固定している紐を解き、すぐにマントの下から鞘ごと剣を引っ張り出した。
”おお、なんかかっこいいな今の”
”動きに一切の無駄がなかった”
”剣の場所を間違えて慌ててたやつと同一人物とは思えん”
”なんかああいうお菓子なかったっけ? 棒状のクッキーみたいなんをチョコにつける”
”ああ、なんかあったな”
”ヤンヤンつけボー?”
”それだ”
”そう言われると急激にダサい”
くねくねの攻撃を掻い潜り、相手の懐に飛び込む。
だがそこではまだ攻撃をしない。
フェイントを入れただけだ。
斬撃ですら相当な力を込めないといけないのだ。
打撃ともなればなおのこと。
フェイントに釣られたくねくねの攻撃を躱し、相手の側面に移動する。
野球のように剣を振りかぶり、渾身の力を込めてスイングした。
「ぐっ」
想定していた以上に重い手応えだった。
考えてみたら当然のこと。
ボスガイアの外骨格で覆っているわけだから、剣本来の性能に蓋をしているようなものだ。
純粋な強度ではボスガイアの外骨格の方が上とはいえ、刃物と鈍器の違いとかって話ではなく、そもそも武器の性能が格段に落ちてしまっている。
俺はいつも詰めが甘い。
くねくねが腕を振り上げた。
回避行動を取りそうになったが、本能がそうするべきじゃないと告げる。
攻撃は最大の防御とは、よく言ったものだ。
相手を圧倒するほどの攻撃を仕掛ければいい、なんて単純な話ではなく、ダンジョンでは少しでも弱腰になった時点で終わりなのだ。
俺はよく逃げ腰になるけれど、弱腰にはならない。
その二つは似ているようでいてまるで違う。
『戦略的撤退』を負け惜しみではなくガチで実行するのが俺だ。
(この程度のリスクも冒せない俺に……)
さらに半歩踏み込み、剣を振り抜いた。
「オラァ!」
胴体が爆ぜ、ザクロの実を叩き割ったみたいに細かい破片が飛び散った。
軌道が逸れたくねくねの腕が鼻先をかすめる。
追撃を警戒して距離を取った。
”おおおおおおっ!”
”エゲツないゴリ押し”
”珍しくイケイケやな”
”カッケー”
「あ、危なぁ……まともに食らってたら、どうなってたか……」
冷や汗がこめかみを伝う。
本能が「ここはゴーだ!」と告げたわけだが、思い返してみたらこれまで本能に従った結果、散々痛い目に遭ってきたのだ。
俺の本能ほど信用ならないものもない。
結果オーライだったとはいえ、
「む、無茶せず、素直に躱しておくべきだった……」
”えぇ……”
”なんやねんこいつ”
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