第166話 弱腰になった時点で
「さて、どうなる……」
俺は気を取り直して、くねくねの様子を窺った。
ダメージが入っていればいいのだが……。
俺の期待はあっさりと裏切られる。
細かい破片はすぐに寄り集まって、元の姿を形づくり始めたのだ。
数が数だけに、多少時間はかかっているけれど、ろくにダメージを与えられていないのがわかる。
「打撃でもダメか……」
もしかして物理攻撃は全て無効なのだろうか。
火や氷のような属性ダメージしか通らないみたいな。
それとも本体が別にいるとか?
くねくねはあくまで人形で、近くにそれを操っている奴が潜んでいたりして。
(……でもなぁ)
モンスターだって生物だ。
それぞれが、ちゃんとした生態を持っている。
ゲームなんかでよくある、取り巻きを倒してからじゃないと本体にダメージが入らないとか、特定の属性じゃないと無効だとか、謎解き要素が含まれているとか、そういう『ゲーム性を高めるためのギミックモンスター』みたいなのは基本的にいないのだ。
少なくとも俺は見たことがない。
(いやでも元になった伝承次第では、あり得るのかな?)
例えば『死してなお姫を守る騎士』みたいな。
そういう逸話が元になっていたら『不死身の操り人形と、どこかで身を潜めている弱い本体』みたいなモンスターがいてもおかしくない。
(でも騎士って感じじゃないしな)
いや、だからこそだろうか。
あんな姿になってしまっても、忠義心だけは失わなかった、みたいな。
(あ、そう考えると、なんかグッとくるな……)
自分の妄想に泣きそうになって、堪えるために下唇を噛んだ。
”なんで泣きそうになってんの?”
”ダメージを与えられなくて悔しかったんかな?”
”甥っ子を格ゲーでボコボコにした時、似たような顔になってたわ”
”手加減したれや”
”大人気ない”
”いつもハゲを馬鹿にしてくるんや”
”ならしゃーない”
”大人の怖さを叩き込んだれ”
そんな考察めいたことをしているうちにも、どんどん修復されていく。
次の一手をどうするか悩んでいると、視界の端に動くものがあった。
剣の鞘に、くねくねの一部がへばりついていたのだ。
ナメクジくらいのサイズで、うねうねと蠢いている。
吐き出されたガムが生命を得たようにも見える。
”うわ……”
”きも”
「…………」
しばらくじーっと見つめてから、そのくねくねの断片をひょいと摘み、口に放り込んでみた。
むにむにと咀嚼し、ごくんと飲み込む。
俺はカッと目を見開いた。
「うまい!」
”うげぇ……”
”きっしょ”
”上回んなや”
「いや、うまいは言いすぎた。ほとんど味がしないし。でも食べられる! 食べられるぞ! なんだろう、この……餅米を一切使ってない餅もどきのお菓子みたいな。それにこう、ザラメ? 甘いわけじゃないし、というかむしろちょっとしょっぱいんだけど、たまにザリザリってした食感が混じってて、いいアクセントになってる。これは調理次第で一気に……いやむしろ素材の味を活かして、生のままポン酢とかワサビ醤油で……」
俺はくねくねに視線を戻した。
ほとんど元通りになったくねくねの全身が、びくりと波打つ。
「改めて見ると、あれだな。あの赤黒いマーブル模様、最初はグロテスクに思えたけど、ラズベリー味のバニラアイスっぽくて美味しそうでもあるな。あの模様の部分はまた違った味がするのかな?」
”お、美味しそう? あれが?”
”言われてみれば、ラズベリー味のバニラアイスに見えないことも……”
”マジで言ってんなら眼科行ってこい。もしくは脳外科”
”それは俺じゃなくまずジローに言えよ”
”ジローはもう手遅れや。お前はまだ間に合うかもしれん”
”言い方がきついだけでガチで心配してるっぽいの草”
ぐぅうううう——
腹の虫が轟く。
俺が一歩踏み出すと、くねくねが二歩後退った。
刹那の間を挟み、俺たちは同時に駆け出す。
ダンジョンでは少しでも弱腰になった時点で終わりなのだ。
俺はそのことをよく心得ている——狩る側の立場として。
”得体の知れんバケモノが得体の知れんバケモノに追いかけ回されてて草”
”どういう状況やねん……”
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