第164話 キングくねくね

 ショッピングモールを出てダンジョン内を歩き回る。

 これまではモンスターと遭遇しないように細心の注意を払っていたけれど、武器を手に入れた今、もうその必要もない。

 こそこそすることなく、むしろ自分を餌にするように堂々と振る舞った。


 牙と角の生えた白い肌の巨人——宇宙人と鬼のハイブリットみたいな見た目のモンスターだけは特徴が人に似過ぎていて、狩ったところで食べる気になれないだろうからボコボコにして追い払ったけれど、それ以外のモンスターは全て切り伏せた。


 鱗に覆われた猪、頭がツツジの花に似た細長い鹿、阿修羅像みたいに頭が三つある梟、胴体だけが白骨化し鳥籠のようになった肋骨に人の頭蓋骨を大量に詰め込んだ巨大な猿、その他形容し難い魑魅魍魎たち。

 それらを焼いては口にし、全部吐いた。

 味は一律ではなく、バリエーション豊かな不味さだった。

 それぞれにちゃんと特徴があった上で、吐くほどに不味いのだ。


「あ、こいつはまだ……」


 口が裏返したムカデみたいな顔のない巨大な馬がまだマシだった。

 いや、どうなんだろう……。

 ただ味覚が麻痺してきただけのような気もする。

 とりあえず俺はマントが汚れないように四つん這いになった。


「オロロロロ」


”吐き慣れてきてて草”

”俺も吐き見慣れてきたわ”

”聞いたことない日本語”


「…………」


 ポタポタと地面に垂れるのは、ヨダレなのか胃酸なのか鼻水なのか……それとも、涙だろうか。


「お、俺はなんのためにここに……」

 

”生の咽び泣きを初めて見た”

”映画館の時より泣いてるやんけ”

”世界を救うためちゃうんか……”

”頼む、俺の感動を返してくれ”

”顔から出せる液体、総動員してて汚な”


 そんな感じで四つん這いのまま打ちひしがれていると、不意に背筋に悪寒が走った。

 全身のバネを使って飛び退く。

 俺のいた場所が爆撃されたみたいに爆ぜる。

 何かが叩きつけられたのだ。

 地面が砕け、つぶてや土煙りと共に俺が流した体液が四散した。


 ぬるりと——白い触手のようなものが音もなく土煙の向こうに消える。


(巨大な白蛇? それとも何かの尻尾?)


 そう思ったものの、どちらも不正解だった。

 土煙の向こうから姿を現したのは、ところどころに赤黒いマーブル模様の入った人型の白い何かだ。

 そうとしか表現できないものが、音もなく歩み寄ってくる。


「……くねくね?」


”確かにくねくねっぽい”

”にしてはデカ過ぎるやろ”

”模様みたいなんも入ってるし”

”くねくねが八体集まったんちゃう?”

”キングくねくねかな”


 向き合っただけで、これまで遭遇したどのモンスターよりも強いことがわかる。


「……あん時のヤツか」


 異形の神の神殿を出てすぐのところで、遠巻きにこちらの気配を伺っていたモンスター。

 姿を見たわけではないけれど、この強烈な気配は間違いない。


”あん時?”

”あれかな、配信を始めたばっかの時の”

”ああ、なんかあったな。真顔で睨み合うみたいな”

”その後に色々あり過ぎてもう覚えてないわ”


「あん時は警戒して立ち去ったのに、今回はずいぶん余裕そうな……」


 まあその原因は明白だ。


(そりゃ弱った獲物にしか見えないよな……)


 自分を餌にするように振る舞っていたけれど、まさかこんな大物が釣れるとは思わなかった。

 しかも心の準備ができていない状態で。


”……あれ? なんかジロー緊張してない?”

”ネット怪談が苦手とか?”

”俺も小学生の頃にくねくね読んでトラウマになったから気持ちがわかるわ”

”子供の頃のトラウマって結構引きずるからあり得ると思う”

”でもだいぶ前やけど、ジロー姦姦蛇螺かんかんだら美味しそうに食ってたで?”

”あ、じゃあ違いますな”

”シンプルに強いんやろ、多分”

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