第163話 悪意を持って
「ちょ、調理の仕方が悪かったのかな? そうだ、そうに違いない」
それから俺は様々な調理法を試してみた。
湯でたり蒸したり炒めたり、ポーションで煮てみたり。
布で漉したり丁寧に洗ったりと、下処理にも気を遣った。
なのに——
「ゲェエエッ!」
”出ました。本日、十二回目の嘔吐”
”もう諦めろよ……”
”今日だけでジロー嘔吐集が作れそうな勢い”
”貴重なポーションをこんなことに……”
「こ、これは無理だ。どうやったって食べられない……」
”気づくの遅えわ”
”ひと吐き目で気づけよ……”
ボスガイアの肉から距離を取るように後退ると、何かを踏んでしまう。
ボスガイアの外骨格の欠片だった。
「…………」
”おいおいおい……”
”なんかじっと見つめてるけど……”
”嘘やろ?”
”さ、さすがにね?”
俺はその欠片を拾うと、試しに口に入れてバリバリと噛み砕いてみた。
”えぇ……”
”なんでもかんでも口に入れんなよ……”
”赤ちゃんかな?”
”こんな歯が丈夫な赤ちゃんがいてたまるか”
”オリハルコンの原石を煎餅みたいに食ってたって噂に信憑性出てきて草”
「あ、こっちの方がまだ……」
”マジかよ”
”こんなん、蟹の甲羅を食うようなもんやろ……”
”そう言われると、なんか別に大したことない気がしてきた”
”ジローだしね”
”実際、過去の配信で蟹型のモンスターを甲羅ごと食ってたしな”
”なんや、いつも通りやん”
”的を射た比喩がジローの不条理さに蹂躙される瞬間を見た”
「でもなぁ……」
なんだろう、肉とはまた違った臭みがある。
医薬品というか、粗末な化学物質のような……。
とにかく不快だ。
それに砕けた欠片はガラスみたいに鋭利で、口の中の至る所に刺さってめちゃくちゃ痛い。
俺は飲み込まずに、ぶぶっと吐き出した。
「……人が食うもんじゃない」
”それは間違いなくそう”
”口にする前に気づけんもんなんか……?”
でも外骨格に目をつけたのは悪くなかった。
何も食べることだけが命を奪った者の務めではない。
大きく特に頑丈そうな外骨格を選び、剣の鞘として加工する。
これで抜き身のまま持ち運ばずに済む。
腰に差すには少し刀身が長いから、背中に背負うことにした。
紐で固定し、その上からマントを羽織る。
柄だけがマントから出ている感じだ。
「うん、いいんじゃない?」
”おお、かっこいい……”
”腰に差すのもよかったけど、背負うスタイルもいいな”
”ちょこちょこかっこよさ見せつけてくるのマジでムカつく”
”しかも本人は全く狙ってないのが憎いよな”
「よし、じゃあショッピングモール探索はこれで終わりかな」
ボスガイアの肉をそのまま放置することに後ろ髪を引かれつつも、俺は出口へと向かった。
(にしても、なんで……)
全ての生き物が食用に適しているわけではない。
そんなことはわかっている。
毒があったり、可食部位が極端に少なかったり、味が悪かったり。
まあそういうものを創意工夫して食べるのが俺は好きだったりするんだけど、それは別の話として。
「さすがに、あれはなぁ……」
頭に浮かぶのは、ずっと昔に観た映画のワンシーン。
いや映画なのかアニメなのかもよく覚えていない。
もしかしたら漫画だったかも。
ともかく印象に残っているのが、一つの食事シーンだ。
シンプルなトレーに乗せられていたから、給食だったのか定食屋だったのか、あるいは刑務所の食事という可能性もある。
状況や文脈は全く覚えていないけれど——
蛆の湧いた白米、ネズミの死骸入りのスープ、生ゴミが混ぜられた野菜炒め。
俺はボスガイアを口にして、なぜかそのシーンを思い出した。
食用に適していないというよりも、悪意を持って台無しにされたような……。
「いやいや、そんなわけない」
自分の考えにセルフツッコミを入れる。
「悪意を持ってって、一体誰が……」
ふとラストの顔と——父のことを思い出した。
別世界や別世界のダンジョンにも、きっと近しい存在がいるはずだ。
それならば……。
「ないないない、ただガイアが信じられないくらい不味いだけだって」
自分に言い聞かせるように、そう呟く。
だってそんなの、あまりにも……。
「あ〜、お腹空いた。早く次の獲物を探さないと」
おどけるように声に出し——
でも俺の希望はあっさりと打ち砕かれる。
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【創作裏話】
この辺りは作品のメインテーマに関わってくる部分なので、表現やテンポにめちゃくちゃ気を使いました。
ただのコメディにはしたくないけど、でも重くなりすぎるのも嫌!という絶妙なバランスを模索して、あーでもないこーでもないと試行錯誤し、たかだか千数百文字を書くのに四日とかかけちゃう始末。
正直そこまでこだわらず、60点くらいのものをぽんぽん毎日更新したほうがPVとか伸びるんでしょうけど……ここまで読んでくださっている方のためにも手は抜きたくないなぁ、という気持ちの方が強いんですよね。
でもPVが減るとモチベーションが下がるのもまた事実!
WEB連載って難しい!という愚痴でした。
更新が遅れても、サボっているわけではないと知っていただけるだけでも嬉しいです。
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