第8話 図書館(1)
はじめての依頼から約1週間ほどの時間が経過した。
初日からハードなわがままに付き合ったこともあってか、後日受けた別の依頼も難なく終わらせることができ、この世界での生活がある種の『日常』いえるだけの落ち着きを手に入れることができた。
その間にあったことをまとめておきたいと思う。
とりあえずとしては、俺たちはそれなりにギルドに馴染めたと思う。
スーリアを始めとしたギルド職員はもちろん、長いこと『
お金に関しても、依頼のおかげで何とかなった。お金は硬貨が銅、銀、金、白金とある。これらの貨幣は明確な金額が定められいるわけではないため、買い物の際には店主と要相談といった感じである。感覚的には銅が百円、銀が千円、金が少し飛んで五万円ぐらいの感覚で、今の所持金は二人合わせて金貨1枚ぐらい。
その他だとこの世界、特にこの国については色々分かった。一番に、極端な『純人主義国家』であることだ。
『純人主義国家』とはそのまま、血統として純血を重んじるということ。この世界には魔族がいるように、いわゆる「亜人」と呼ばれる種族がいるようだが、この国にはほとんど見られない。それこそ、国主導の下で、そういった他種族を排斥しているからである。
血統に関して付け加えると、貴族や平民という区別にも権利の面で大きな差があるらしい。ここ『トゥーリア』はその差が少ないが、王都まで行くとその扱いの差が顕著に出るとか。
後は、自分の力について。
第一に、俺とユノの「強さ」というものは、元の世界よりも高いと思う。分かりやすかったのが跳躍力で、軽く跳んだだけでも2メートルはジャンプしたのだ。走るのも指標がないため曖昧だが、少なくとも一般人の枠は超えていると考える。
第二にこの世界には魔術が存在する。これは、魔法とは別物であることが重要だ。
簡単に言えば、魔法は神が扱う奇跡で、魔術はそれを人の力で再現した魔法の下位互換だ。とは言え、俺からすればどちらも常識からかけ離れた『魔法』になるが。
更に、魔術には「先天式」と「起動式」の2種類存在する。
前提として、魔術は原理を理解し、詠唱をすることでそれを形作るものである。詠唱は魔術起動に必要な陣を形成し、魔術を使う者はその陣に魔力を流すことで魔術を発動することができるという。これそのものは「起動式」であり、理論的には魔力を持つ者は誰でも可能である。
これに対して「先天式」は陣や詠唱を介さず使うことである。理論を知らない子供が本能的に使ったことが始まりで、生まれつき持った加護ともいわれる。
ちなみに、俺とユノにはこの「先天式」の魔術が使えた。
俺は【
長くなったが、とりあえず思うのは「今のところ順調」ということである。
「それで、きょうはどうするのー?」
「今日はお休みだよ。兄さんがどうしても休みたいっていうからね。そのせいで、ボクは今日暇になっちゃうけど」
「お前は元気が過ぎる。こっちはもう連日引っ張りまわされてもうボロボロなんだよというか、一緒に動いているはずなのに、ユノは疲れてないのかよ」
「そうだよ。兄さんが運動不足なんだって」
「朝から晩まで走り回れば、普通の人間は疲れるだろ。この体力オバケめ、頼むから週に一回は休ませてくれ…」
「そういって兄さんは家に引きこもってたじゃん! だからボクは心を鬼にして、兄さんをまっとうな人間にしようと――」
「擦り切れるまで働くことが真っ当な人間か!? 後な、俺は引き籠もりじゃなくてインドア派。今日もただ休むんじゃなくて約束があるからなんだよ。この街の図書館に行って情報収集をだな――」
ああ言えばこう言う。シュリが作ってくれた朝食を前に俺たちはああだこうだと言い争いをする。ここ数日繰り返す「当たり前」のやり取りだ。
最初は俺もこんな風に話すことに戸惑いがあった。でも、彼女の様子を見ていて気兼ねない会話をしている方がいいと判断した。
「ともかく、俺は今日は休むからな。ああ、シュリさん。そんな感じだから、昼食は悪いが外でしますから」
「おっけー」
「じゃあシュリちゃん! ボクと一緒に街を回らない? ボク行って見たかったところがいくつかあるんだ」
「うーん、おひるからならいいよ」
「やった!」
近い距離感で話すのは妹のためでもある。ユノは誰とでも仲良くするが、とは言っても誰彼構わず信用する程フワついた考えもしていない。俺がよそよそしい態度なら、優しいユノは気を使ってシュリとの接し方を躊躇ってしまうかもしれない。
賑やかな朝食は終わりを迎え、各々が自分の目的を持って動き出した。
宿を出て10分ばかり歩く。ギルドより少し遠くにある図書館へとたどり着いた。
元々、この街には小さな学院があったらしい。学院では一般常識から特定分野の専門知識など様々な内容の講義が行われ、単位の認定がもらえる。これは王都を始めとした各地での就職に役立つもので、一部では功績として爵位まで与えられるとか。
しかし、ここ『トゥーリア』の街はそういった都市部から離れてしまっている。当然、王都にも学院があり、いつからか遠方であるこの街の学院はその価値を認められなくなった。
結果として人は離れて行き、気付けば学院は無くなってしまった。図書館はその名残で、学院で使われていた教材や学院の書庫に保管されていた書物が図書館という形で一般公開されている。
ちなみに、この世界では書物は比較的高価な代物のようで、図書館は街の入口よりも警備が分厚い。現に、入口付近からざっと見渡しただけでも4人はいた。それも、タンタのような適当なものではない。ルシルぐらい真面目で、それでいて彼よりも屈強な兵士がいる。正直、威圧感が強くて入りたい気持ちが失せるほどだ。
──関係ないが、仮身分証を返しに行った際、詰め所にいたタンタは寝ていた。休憩中などではない。そんなのが入口の警備でいいのやら。
意を決して入口に立つ。警備兵は、腰に差した剣の柄に手を置き、問いかける。
「何用だ?」
「図書館に入りたい。これ、身分証だ」
兵士は俺の身分証を見て、少し眉をひそめる。
「⋯新人か。成り立ては大人しく外で剣を振るのが定石であろうに」
「クレバーな生き方をしようと思ってね。別に、新人が図書館を使っちゃいけないってルールはないだろ?」
「ふん⋯いいだろう。だが、長くても夕刻までには出ろ。いいな?」
彼の視線はかなり鋭い。唾を飲み込みつつ、平静を装った対応に、問題なく入室許可が出た。
中に入って、俺は思わず息を飲んだ。
それは絶景であった。入ってすぐ見えるのは吹き抜けの全フロアであった。建物が低く、せいぜい二階までと思っていたが、どうやらここは地下に階層が伸びており、壁を覆うように本棚が並んでいる。
通路の柵から身を乗り出して見れば、全方位どこもかしこも本棚で埋まっている。ここを一階とするなら、上は二階、下は地下二階まで伸びている。
「これはなかなか⋯やっぱユノも連れて来るべきだったな。アイツ、こういうの好きだし」
そんなことを考えつつ、俺は案内板に従い、地下二階へと目指す。
今日ここに来たのは何も物見遊山ではなく、明確な目的があって来ている。それこそが『魔術』だ。
というのも、この一週間でギルドの他の冒険者と話す機会があった。後輩として色々なことを教わったのだ。魔術もその一つで、とある冒険者に、魔術について知りたいなら
――今日はそれを教えてくれた人との約束で来ている。
「お待たせしました」
目的の人物の後姿を見かけ、声をかける。その人は眼鏡を掛けなおしながら、ゆっくりとこちらを振り向く。
「ああ、待っていたよ…ユキ・アガツマ」
彼の名はフーセント・ウォルター。等級「金」の冒険者で、ここ図書館の管理人をしている人だ。
剣蒐姫 ~TCGコレクターの暴走~ 黒狐Tail @KuROko2334
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