第5話 冒険者
冒険者ギルド――公的な私兵という何とも矛盾したものを持つ雇われ戦士の組織であり、一部を除いて専門的な知識や技術を必要としない活動は、その多くがこのギルドを仲介して「依頼」という形で行われる。
また、ギルドに所属するものを職業名として『
依頼は個人で申請されるものから、国から出されるものまで様々である。国からの依頼は『国頼』と呼ばれ、その内容は主に他国との戦争や内乱鎮圧、時には外交の護衛として雇われることもある。
等級はそのまま受けることが可能な依頼の難易度にも直結し、等級が高ければ相応のサービスが受けられる。等級を上げるには、一定数の依頼をこなすだけでなく、ギルドで技術試験もしくは筆記試験を受け、それを合格した場合、昇級することができる。
昇級があれば降級もある。前述したように、ギルドは公職であり、『
上記の通り、冒険者は国に所属する兵士の一部である。その上、かなり自由な動きを認められていることもあり、行動に対する責任追及はかなり厳しい。
「—―以上が、ギルドと『
中央広場で無事合流することができた俺と唯乃はギルドに来ていた。
中に入ってみれば、雰囲気は飲食店といった様子で、依頼や報酬の受け渡しなどを行うカウンターと飲食ができるテーブルなどが並べられた食事処に分かれている。夕暮れ前なこともあって人の数が少なく、少し寂しげであった。
ギルドについて一通りの説明を聞いたところで、俺は当初の目的を聞く。
「門の衛兵にここで身分証が発行できるって聞いたんですが…」
「はい、できますよ。冒険者登録には身分証が必要になりますので、先に行いますか?」
「…ちなみに、お金とかって」
「通常は1人につき銀貨5枚をいただきますか、いくつかの条件を満たせばお支払いなしで可能です。条件は2つ、1つは『他ギルドへの登録をしないこと』、もう1つは『昇級試験の合格基準が高いこと』になります」
銀貨5枚なら払えないこともない。しかし、今は少しでも節約しておきたい状況だ。宿のこともある。宿は特に、個人的には安全面を考慮して少しでもいい場所にしておきたい。そうでなくとも、悪目立ちする格好なのだ。
どうしようか、と唯乃と顔を見合わせる。妹も、俺とそう変わらない考えのようで、意見は一致していることを確認できた。
「じゃあ、支払い無しの方で」
「わかりました。ではこちらに署名をお願いします」
そういって、受付の女性は誓約書とかかれた書類をとりだす。文面は今説明を受けたことと同じ内容が並んでおり、その一番下には名前を書く空欄がある。
俺はどうしようかと渡された筆を止めた。
「どうかしました? 何か疑問点でも…」
「いや、そうじゃなくて。俺たちはそれなりに田舎から来ていて、申し訳ないが、この辺の文字が書けないんだ。何とか読むことはできるんだが」
そう、文字の問題である。読めるし、話せる。しかし書けない。看板の文字を手のひらで何度かなぞったが、どうにもうまくいかない。理屈は不明だが、文字の意味を直感的に理解できるようになっているという表現が正しいのだろう。何とも
「なるほど、そうですね…こちらはあくまで、ご本人様の確認ができればよいもので、ギルド側がはっきりと読める必要はありません。ですので、こちらはそのまま書ける字で構いません。しかし、この後の身分証作成のための個人情報に関しましては、こちらが確認できる必要があります。そちらは、私が代筆いたしますのでご安心ください」
それを聞いてほっと胸をなでおろす。俺と唯乃はそれぞれ一枚ずつの誓約書にサインをした。
「ありがとうございます。次に、こちらが身分証のための書類になります。必要なのは名前と年齢、冒険職を書きます」
「冒険職?」
初めての言葉に唯乃が反芻する。
「冒険職は冒険者として、何を主体とした仕事を受けるかを決めるものです。例えば『戦士』であれば魔物や野党の討伐を、『鍛冶師』であれば武器や防具の作成を行うものです。これは特に、指名依頼に使われるもので、これを決めたからと言って他の仕事を受けられないということはございませんのでご安心ください。特にないようでしたら、そのまま『なし』と記載することができます」
「どうしよっか?」
「うーん、特にないってのが本音だけど…指名依頼以外に何か意味はありますか?」
「あるとすれば、チーム募集に引っかからないことかと」
「チーム募集って?」
「依頼は基本的に複数人で行います。個人の人が、ギルドを通してチームメンバーの募集を行うのですが、その斡旋に、該当しなくなります。『なし』を選ばれる人は滅多にいませんので」
この世界で生きていくには、俺と妹の2人というのは難しい。しかし、下手にできないことを書くのも、あまり褒められたことではないだろう。ゆくゆくは『仲間』と呼べる人材を集めるべきだが、今はまだ新しい環境に慣れるのが先だろう。
「その冒険職って、後から変更可能ですか?」
「手続きが必要になりますが、可能ですよ」
「じゃあ、いったんは『なし』ってことで」
「分かりました。では、最後にお名前と年齢をお願いします」
受付の女性は2枚の書類を並べ、筆を構える。唯乃と見合い、俺から言うことにした。
「俺はユキ…ユキ・アガツマ、20才」
「ボクはユノ・アガツマ、16才です」
受付は俺たちの言葉を繰り返し確認しながら筆を進める。
その他にも記載事項があったようで、受付の人はしばらく書類に集中していた。登録日や登録場所、あとは担当者の名前などなど。担当者の名前ってのはこの女性の名前で、スーリアと書かれていた。
「—―はい、これで大丈夫です。今一度、ご確認ください」
それぞれ確認し、問題ないことを告げ、渡された書類を返した。
受け取ったスーリアは小さく咳ばらいをしてから、優しい笑みを浮かべて、少し大きめの声で告げた。
「ユキ様、ユノ様。ようこそ、ギルド『
「「「歓迎いたします!!」」」
スーリアの言葉に合わせて、後ろで仕事をしていた他のギルド職員が声を揃えて復唱する。ギルド全体に響くほどの声量で、遅れて、まばらにいた冒険者から拍手され、俺はかなり恥ずかしかった。ちなみに、ユノは手を振っていたりと呑気なものである。
ともあれ、俺――ユキは無事、『
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