第3話 鏡

 俺は偶に、鏡の向こう側の俺に挨拶をする。

「やぁ、元気かい?」

 と言って右手を挙げる。

 鏡の向こう側の俺は、向かって左側の手を挙げる。


 口は

「やぁ、元気かい?」

と開くが、勿論、声は聞こえない。


 何故、そんな事をするのかって?

 子供の頃から、ずっと気になっていたんだ。

 あっちの世界の俺は、俺の反射した姿に過ぎないのか?

 勝手に動いたりしないのか?

 ってね!


 まぁ、バカバカしいことだけどね。

 それを、鏡の向こう側の俺は、この俺の反射に過ぎないってことを確認する為に、挨拶するのさ。


 今日は、少しだけ巫山戯て、

「右手を、挙げる」

 と言って右手を挙げた。


 鏡の向こうの俺も、同じく右側の手を挙げた。

「右も左も分からん、馬鹿とは思われたく無くて!」

 鏡の向こうの俺は、照れ臭そうにそう言った。

        <了>

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