第12話

そしてファティーより5つ年上のナイリアは金茶色の髪に、菫色の目を持つ。



「私が口煩いのは神子様の為を思っての事です。それが分からないほど神子様は子供ではありません」



騎士団には少ない女性でありながら、2年前、25歳で魔術部隊長となった。



魔石を用いて魔法を操る魔術部隊の中で彼女の右に出る者はなく、攻撃魔法は殊更に強力であり、隊員からはやはり『マスター』と呼ばれている。



「さあ、ファティー。そろそろ陽が落ちます、城に戻りましょう」



夜になってしまえば魔物の力が強まる。



騎士ならば尚の事、夜の恐ろしさは身に染みているのだ。



「ああ分かってる。この先で売っている砂糖菓子を買ったら直ぐ城に戻る」



「ファティーったら…。神子様を甘やかし過ぎです」



「何とでも言ってくれ」



食糧難のこのご時世で砂糖は非常に希少で高価である。



そんな砂糖で作られた菓子など、一般人の手に届く筈も無く。



扱っている店も、裏ルートで砂糖菓子を入手しているのだ。



「これは騎士様。例の物、用意してございます」



ファティーにそっと耳打ちした店主は、奥から小さな包みを両手で大切そうに持ち出して来た。



「いつも無理を言ってすまない」



「いいえ、騎士様のご注文を苦に思ったりは致しませんよ。いつでもお申し付けください」



恭しく頭を下げた店主へ法外な料金を支払い、小さな包みを無造作にポケットへ入れたファティーは、店の外で待っていたナイリアへ声を掛ける。



「お待たせ」



「ええ、早く城へ戻りましょう」



その時、冷たい風が強く吹き付けた。



ナイリアの長い髪が舞い上がる。



「…っ」



それは、一瞬の出来事。



何者かの気配にハッとしたファティーに、誰かがトンッと軽くぶつかる衝撃。



甘い蜜のような花の匂い。



そして。



駆け抜けてゆく何者かの後ろ姿。



「…待てっ!」



咄嗟に駆け出すファティーを慌ててナイリアが呼び止めた。



「ちょっ…、ファティー!?」



事態が飲み込めずに戸惑うナイリアを振り返る事無く。



「スリだ!捕まえる!」



強く響いたファティーの言葉にハッとし、ナイリアも慌てて後を追う。



少年?



否、女だろうか?



小柄で線の細い後ろ姿。



大きなフードから、色素の薄い白金色の髪がキラキラと見え隠れしている。

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