第11話
その場に居た他の者達も慌てて地に膝をついて頭を垂れた。
多くの騎士とは異なる装いを見れば、それが特別階級の騎士だとわかる。
「き、騎士様、団長様お許しを…っ」
「神子は要らないと言ったな?」
「い、いえ…、いいえ、そんな滅相もない…」
「光の神子を愚弄する事あらば、ただでは済まないと忠告しておく」
「は…、はい…っ」
静かに下ろした長剣を騎士が鞘に収めた途端、民は一目散に逃げ出した。
「まったく…。困ったものだ」
溜息混じりに小さく呟く男の背後から、同じ特別階級騎士の制服を来た長髪の女性が近付いてくる。
「困り者なのは貴方です、ファティー。民に剣を振るうなど言語道断ですよ」
キッパリと言い切る彼女を振り返り、ファティーと呼ばれた若い男は悪びれもせず投げ遣りな言葉を返した。
「光の神子を侮辱すれば厳罰に処される。そんな事は君も知っている筈だが?」
「知っています。ですが今のこの世でそんな事を言っていたら、民の大半を罰しなければなりませんよ」
そう、民衆の多くは新たなる神子を切望していた。
魔物のような赤い目を持つ神子ではなく、今度こそ輝くような完璧な光の神子を。
「ファティー、自重してください。我々『光の騎士』が民の反感を買えば、神子様への風当たりも過剰に強くなります」
二十万人余りからなる騎士団のトップ、それぞれの部隊の長から成るたった三名だけの特別な騎士。
神子に直接会う事を許されている数少ない人物の中でも、彼等は特に神子との時間を多く持つ。
光の神子に忠誠を誓い、命を賭して守り抜く、光の神子の為に存在すると言っても過言ではない。
剣術、魔術、弓術、其々の部隊を率いる精鋭中の精鋭、それが、ファティー達なのだ。
「ナイリア、君の説教は聞き飽きてる。そんなんだから君は神子にも煙たがられるんだ」
端整な顔立ちに深い緑色の目、そしてこの国には稀な黒髪を持つファティーは、15歳と言う異例の若さで剣術部隊の長となった剣の名手で『ソードマスター』と呼ばれている。
部隊長となり7年経った今も圧倒的な戦闘力を持ち、その剣に敵う者はただの一人も居ない。
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