37.ばらと毒虫(4)
Ⅶ
若者は、しばし目をとじて、話を整理しました。生き返ったばかりで、まだ頭が追いつきません。
「つまり、ここは魔術師のかくれがで、きみはその魔法を使って、おれを生き返らせてくれたのか?」
「ええ」
ひとつ疑問がうかびました。
「きみはなぜ、おれを生き返らせてくれたんだ?」
「あなたを食べたことで、あなたの気持ちや記憶が、わたしの中に入ってきたの。あなたの、生きたい、もう一度恋人に会いたい、という強い思いを感じて、生き返らせようと思ったのよ。それに――」
「なんだ?」
「あなたの記憶と、わたしの記憶をてらし合わせて、真実がわかったの。あなたは殺されたのよ」
魔物は、真実を告げました。
「あの山くずれは自然災害や事故じゃない。しくまれたことだったの。わたし、見たのよ。あの日、脱皮のすぐあとで、トンネルで休んでいたとき。すきまから、外をながめていたの。あなたの主人が、火薬に火をつけていたわ。そのときは、
そのひと、笑っていたわ」
「……どういうことだ?」
「あなたの主人が、火薬をしかけて、あなたを生き埋めにしたんだわ。理由は、おそらく――」
「あの子をうばうため! そのために、おれを!」
若者はカッとなり、目が血走りました。しかし、いかりをおさえました。
「いや、それより、あの子が心配だ。おれが守ると言ったんだ。すぐに行かないと」
「それがいいと思うわ。でも、聞いて。あなたに伝えなければいけないことが、2つあるの」
魔物のいう1つめは、このようなことでした。
「生き返らせたといっても、今のあなたは、本当の人間じゃないの。土で体を作った、土人形よ。今のままでは、食べることも、老いることもできないわ。術者が死ぬまで死ぬこともできない、不老不死のまがいものなの。本当の人間になるには、しんせんな人間の体を使って、もういちど反魂の秘術を行うしかないわ。人間を殺して、その血肉をうばうの」
「そんなことできない!」
「あなたの主人を殺して、その体を使えばいいわ。あなたを殺そうとした悪い人だもの。あなたは、わたしにわが身をくれた、優しい人よ。あなたが生きているほうが、ずっといいわ」
「主人を……!」
若者の目に、いかりの炎がふたたび燃えました。それは、復讐の色をしていました。
2つめは、このようなことでした。
魔物は「言いづらいことなんだけど……」ともじもじしてから、「ごめんなさい!」と頭を下げました。
「あなたを生き返らせるのに、とても時間がかかってしまったの。反魂の術は、ただでさえ時間がかかるのだけど、ふなれなわたしがやったから、何度も失敗してしまって」
「そうか、半月か……ひと月くらいか?」
「ここには時計もこよみもないから、人間の数え方はできないけれど。夏と冬がひとまわりか、3まわりはめぐったような……」
「1年か、3年だって!」
若者はおどろいて、さけびました。
「そんなに長い間、おれのために反魂の術を?」
「えっ?」
魔物は、目をぱちくりさせました。
「生き返らせてくれて、どうもありがとう。時間なんかかまわないさ。もういちどあの子に会えるのなら。あの子もそう思ってくれるはずだ。とはいえ、主人からひどいめにあっているかもしれない。急いで助けに行かないと」
「これを使うといいわ」
魔物は、古い宝箱を差し出しました。
その中には、3つの品物が入っていました。
Ⅷ
それは、ターバン、マント、バブーシュ(くつ)でした。
「アル・アラムの衣装かい?」
「ただの衣装じゃないわ。魔法の道具なのよ」
魔物は、順番に説明し、若者にわたしていきました。
1つめは、ターバンです。
「これは、どんな物でも出せるターバンよ。ほしい物を念じれば、どんな物でも取り出せるの。ただし、生き物以外」
「アル・アラムの伝説の正体か」
若者は、ターバンをかぶりました。
2つめは、マントです。
「これは、どんなすがたにもなれるマントよ。このマントをひるがえせば、どんな外見や服装にも変身できるのよ」
「おれが生きているのを主人に知られたら、また命をねらわれるかもしれない。あの子に会うまでは、変装して行こう」
若者は、マントを身につけました。
3つめは、バブーシュ(くつ)です。
「これは、どこへでも行けるバブーシュよ。このくつをはいて、かかとを合わせれば、いっしゅんで行きたいところへ行けるの」
「それなら、出口が埋まっていても、この洞窟から出られるな。あの子がいる町に行ける」
若者は、バブーシュをはきました。
3つすべてを身につけると、「すがたよ、変われ」と念じながら、マントをひるがえしました。
すると、黒い布が若者の体をつつみました。
タキシード、サスペンダー、ステッキ。顔にはガイコツのような白いメイク。魔法のターバンは、シルクハットに変わっています。
「バロン・サムデイの衣装だ。おれの祖国に伝わる死神なのだ。主人に死をもたらすのに、うってつけのすがただろう」
「西洋のマジシャンみたいね」
「そうだな、マジシャンのふりをしよう。市場には、いろいろな国の旅芸人が来る。主人は毎日、市場の見まわりをするから、そのときに近づいて、このシルクハットからへびや毒虫を飛びつかせ、かみ殺してやるのだ」
魔物は、反魂の手はずを教え、魔法の粉をわたしました。
「わたしが、たくさん失敗してしまったから、少ないけれど。ちょうど、あと1回分あるわ」
「魔法の道具と粉をもらっていいのか?」
「ええ。わたしはいらないし、もともと人間の物だもの。あなたが幸せになるために使って。体を食べさせてくれた、せめてものお返しよ」
若者は、お礼とお別れを伝えました。
そして、バブーシュのかかとを合わせると、たちまち消えました。
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