27.オニグモの恋

 ある晴れた日、小さな巣に、1匹のオニグモがうずくまっていました。

 そこへ、友だちのオニグモがおとずれました。友だちは、家主よりひとまわり大きく、おなかがまるまるとふくらんでいます。

 クモを見るなり、友だちはおどろいて、てみやげのバッタを落としてしまいました。

「どうしたの、そんなにやつれて! ずいぶんすがたを見せないから、たずねてみれば、骨と皮ばかりになって! まるでユウレイグモだよ、それじゃ」

「やあ、きみか……」

 クモはよわよわしく顔をあげました。友だちは、小さくて穴ぼこだらけの巣を見まわしました。

「巣の手入れもしてないんだね。これじゃ、えものが引っかからない」

「うん……」

「ひとまず食べなきゃ。ほら、これを食べて」

 クモは、おっくうそうに右足をふりました。

「食べたくないんだ」

「具合でも悪いの」

「ぼくはいやになったんだ。クモはみにくい。それは、ほかの虫を食べるみにくい生き方が、ぼくらをみにくくしているのさ」

「また、そんなことを言って。クモなんだから、しかたないよ」

 友だちは、8本の足を器用に折ってすわり、クモの顔をのぞきこみました。

「きみはときどき、そんなことを考えるんだね。でも、いつもより思いつめているのはどうしてなの。おさななじみには話してくれるよね」

「きみには、かなわないな」

 クモは、8つの目を夢見るようにうっとりさせました。

「ぼくは、恋をしたんだ。相手は美しいアゲハちょうさ。彼女や、彼女のなかまを食べたくないんだ」

「ちょうちょうに恋なんて!」

 友だちはさけびました。

 しばらく考えて、しずかに言いました。

「それなら、ちょうちょう以外を食べればいい」

「ほかの虫の血をすすって生きることが、いやなんだ。空を自由に舞う美しい彼女にくらべて、なんてみにくい。少しでも彼女に近づきたいから、もう虫は食べない。朝つゆをのんでいるんだ。えものが巣にかかっても、にがしてあげるつもりさ」

「クモは、つゆや花のみつじゃ生きられない」

「死んだっていいさ。ほかの虫を食べずに、はらぺこになって死んだら。つぎに生まれるときは、ちょうちょうになれるかもしれない」

「……きみが死んだら、かなしむ虫がいるよ」

「クモはきらわれ者さ。かなしむ虫なんていないよ」

 クモはそれきりねむってしまい、友だちはそっとバッタをおいて、何度もふり返りながら帰っていきました。


 友だちはクモを心配して、まいにち、巣をたずねました。

 ハエや羽虫を持ってきても、クモはがんとして口をつけず、どんどんやせていきました。

 ある寒い夜、とうとう、クモは死にました。

 友だちは、ひからびたクモを抱きしめてつぶやきました。

「クモはみにくいと言っていたから言えなかった。あたしはきみが好きだったんだよ」

 そして、ぽろぽろと涙をこぼしました。

 涙のつぶは、巣のあちこちにかかりました。

 夜が明けたとき、涙のつぶにふちどられたクモの巣は、朝日を浴びて、きらきらと美しくかがやいていました。


 おしまい。

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