13.なみだのダイヤ

 むかし、貴族のだんなさまとおくさまが病で亡くなり、娘がひとり残されました。

 ふたりは死ぬ前に、「自分たちが死んだあと、娘がお金にこまりませんように」と神さまに願いをかけました。

 願いは聞きとどけられました。

 両親のお葬式で娘が泣いたとき、涙のつぶが、ダイヤモンドに変わったのです。

 涙の数だけのダイヤモンドが、ポロポロとこぼれました。

 お葬式にきた人々はおどろき、神のみわざだと話しました。


 娘はおばに引きとられました。

 しかし、おばはダイヤモンドが目当てだったのです。

 娘は、森の奥につれていかれました。そこには高いとうがあり、塔のいちばん上にとじこめられました。

 おばは、娘が逃げないように、へやの外からかぎをかけました。


 娘は、ひとりぼっちでさみしいものですから、うつむいて、しくしく泣きました。その涙はダイヤに変わります。

 おばは日に1回、塔をおとずれては、ダイヤを集めて帰りました。

 娘が孤独になれてしまうと、おばは、悲しい話や歴史ものがたりを聞かせました。娘はいつも、あやまちやあらそいの場面で、泣いてしまうのでした。

 ときには、ひどいことを言われたり、むちでぶたれたりしました。

 たくさん泣けば、たくさんダイヤが取れるし、大つぶの涙を流せば、大つぶのダイヤが取れたのです。

 泣きすぎてのどがつぶれ、声はかれました。

 しかし涙はかれません。

 娘は毎日泣いてすごしました。


 涙の日々が、何年もつづきました。

 娘のなぐさみは、塔のまどから外を見ることでした。

 外の景色はいつも、空と、森の木々だけです。

 それでも、うつりゆく雲の形や葉っぱの色をながめることは、娘のたったひとつの楽しみだったのです。

 そうして、広い世界に思いをめぐらすのでした。


 娘はいつものように、まどから外を見ていました。

 しかし、その日は、いつもとちがうものが見えました。

 娘がいる塔の上と、おなじ高さの空に、ひとがいるのです。

 高い木と木のあいだにつなをわたして、その上で、とんだりはねたりしています。

 それは、サーカスのピエロでした。つなわたりの練習をしていたのです。


 ピエロも娘に気がつきました。

 娘が悲しそうなので、パントマイムで芸をしました。おかしな身ぶり手ぶりで、笑わせようというのです。

 娘は笑いたくなりました。

 しかし、長いあいだ泣くだけだったので、笑い方を忘れていました。笑えなくなっていたのです。

 お礼を伝えたくても、声はかれています。

 そこで、ピエロの笑顔のメイクをまねして、くちびるのはしをきゅっと上げてみました。

 ピエロは手をたたいてよろこびました。

「いい笑顔だ! きみは笑顔がにあうよ」


 その日から、ピエロは毎日やってきました。

 塔のそばで、つなわたりの練習をしては、おどけて見せました。

 娘が笑顔をつくると、ピエロのほうが、もっとうれしそうに笑うのです。

 娘にとってはじめての、笑うことをのぞんでくれる相手でした。


 娘は、前より泣かなくなりました。

 ダイヤが少ないと気づいたおばは、塔を見はりました。

 娘がピエロと会っていることを知ると、塔のまどを、板でふさいでしまいました。


 娘は思いました。

 前とおなじにもどっただけよ。

 しかし、ふしぎです。前よりもずっとずっと、つらいのです。心の奥がしくしくいたんで、涙がにじみました。


 娘がうつむいたとき、外から、コツコツいう音とピエロの声が聞こえました。小石をなげて、自分をよんでいるのだと思いました。

 娘は顔を上げました。

 へやを見まわすと、だんろにかきぼうがあります。それを手に取りました。

 そして、いっしょうけんめいになって、板をはがしました。

 まどをひらくと、ピエロがにゅっと顔を出しました。

「よかった、いなくなってしまったのかと思ったよ。今日は新しい出し物の練習にきたんだ」

 ピエロは、塔とおなじ高さの、うーんと長い竹馬にのっていたのです。

 そうして塔によりかかり、ノックをして、娘によびかけていたのでした。


 娘はおどろき、そのひょうしに、涙がひとつぶこぼれました。

 涙はたちまち、かがやくダイヤになりました。

 ピエロは目をまるくして、床に落ちたダイヤを見ました。

 娘は悲しくなりました。

 このひとも、ダイヤをほしがるようになるわ。

 こらえきれず、はらはらと泣き出しました。涙はダイヤに変わり、パラパラ落ちました。

 すると、ピエロは言うのです。

「泣かないで。笑ってよ。おいらはピエロだよ。おいらがほしいのは、きみの笑顔さ」

 娘はうれしくて、もっと泣きました。うれしくて泣いたのは、はじめてでした。

 ピエロはこまってしまい、おどけたり、ふざけたりしました。

 それでも娘は泣きやみません。ピエロはおずおずとまどをのりこえ、となりにすわり、せなかをなでました。


 娘は泣きつづけました。

 昼も夜も泣いて、朝になると、涙はとまりました。

 差しこむ朝日がふたりを照らします。

 娘はすっきりして、はればれと笑いました。ピエロは

「ほら、きみは笑顔がにあうんだから」

と、娘のえくぼをつつきました。


 つづけて「ここから逃げよう」と言いましたが、娘は首をよこにふりました。

 そして、手紙を書いておばを待ちました。

 おばがダイヤを取りにきたとき、その手紙をわたしました。

 そこには「お世話になりました。さようなら」とありました。

 おばはひどく怒りました。

 でも、娘は泣きませんでした。おばの目をまっすぐに見つめました。

 おばは、娘が出ていくことをみとめました。もうダイヤは取れないとわかったからです。

 まあいいわ、と思ったのです。すでに、しまいきれないほどダイヤを持っていたし、最後に娘が流したダイヤは、今までのすべてよりも美しかったのです。

 それを首かざりにして、身につけ、ダイヤの山をながめていると、おばは満足なのでした。


 娘はピエロとおなじサーカスに入りました。

 町から町へと、世界を旅してくらしています。

 声が出ないので、ピエロからパントマイムをならいました。

 あいぼうになって、いっしょにステージに出ると、ふたりは評判になりました。

 娘は、もう泣くことはありません。あのときに一生ぶん泣いてしまったのでしょう。

 かわりに、めいっぱい笑っています。

 ほら、ステージのまんなかをごらんなさい。ピエロのとなりです。このサーカスの、花形パントマイム芸人がいるでしょう。

 ニコニコ笑っている、あの娘ですよ。


 おしまい。

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