12.青ひげのはなよめ【コメディ/残酷描写微】
よく晴れた午後です。
小川のほとりに、美しい娘と、おなじ年ごろの若者がすわっています。
すこし先に、粉をひく水車小屋が見えます。
娘は粉屋の
若者は、となりの家のむすこで、両親とパン屋を
ふたりは幼なじみでした。
粉屋の娘が、前のだんなさまのぐちを、パン屋に聞いてもらっているのです。
「まったくもう! いやになっちゃうわ!」
ほおをふくらませて、娘は言いました。
「あたしはなんて男運がないのかしら! 婚約が1回と、結婚が4回もだめになるなんて!」
娘はプリプリと話しつづけました。
「思えば、はじめの婚約からよくなかったのよ。お城の王子さまに求婚されたと思ったら、その正体が、人殺しのどろぼうだったんだから!」
「『どろぼうのおむこさん』事件だね」
「地下室で娘たちを殺していたの。なぞのおばあさんのおかげで逃げられたけど、あたしも殺されるところだったのよ! いちばんこわかったのは、ウエディングドレスのむなもとに、ばらばら死体の指が落っこちてきたときよ!」
「そ、それは恐怖体験だね」
「その事件から立ち直って、伯爵さまと結婚したら、その人も人殺しだったの! 地下室に死体があったわ。またもや、なぞのおばあさんがいて、馬車にのせて逃がしてくれたの。男爵さまのお城にたどりついて、男爵さまと結婚して、ハッピーエンドよ」
「『人殺し城』事件だね」
「ところが、また人殺しだったの! 地下室におよめさんたちの死体がつるされていたわ。兄さんたちが助けにきてくれたけど、心臓に
「有名な『青ひげ』事件だね」
「つぎは銀の鼻のだんなさまと結婚して、イタリアまでおよめにいったの。そのお城でも、地下室で娘たちが焼かれていたわ」
「『銀の鼻』事件だね」
「つぎのお城も、地下室で娘たちが焼かれていたわ」
「『3本のカーネーション』事件だね」
「このころになると、手ぎわがよくなっちゃった。はじめはおばあさんや兄さんたちに助けられていたけど、自分でお城から逃げたものね。そんなことになれっこなんて、かわいげないよね。何回も
「そんなことないよ」
「あーあ、お金持ちのおよめさんになったら、幸せになれると思ったのになあ。あたし、きれいでしょ?」
「うん、むかしから」
「ありがと――だからね、貴族のだんなさまにみそめられて、お城でくらすことにあこがれていたの。でも、みんな人殺しだなんて! 地下室で殺しすぎよ! 平民とちがって、貴族は青い血が流れているというのは、本当ね! 貴族なんて、みんなイカレてるんだわ!」
「はは、まあ、多すぎるお金は人をおかしくさせるかもね。こんどは、平民をおむこさんにしたらいいんじゃないかな。ぜいたくはできないけど、平和で幸せだよ。たとえば……パン屋とか」
パン屋は、まっかな顔でうつむきました。
娘はパン屋を見つめたあと、クスッと笑いました。
「ええ、そうね。あんがい、そういうのが、いちばんの幸せなのかもしれないわね」
ふたりはほほえみ合いました。
そこへ、娘のふたりの兄がかけてきました。
「たいへんだ! おまえのふたりの姉さんが、悪い魔法使いにさらわれた!」
「また人殺しなの⁉ しかたないわね、あたしにまかせて!」
娘は姉たちを助けるために、わざと、悪い魔法使いにさらわれました。
悪い魔法使いも、お城の地下室で人殺しをしていました。
娘は今までの経験をいかして、姉たちを救い出し、悪い魔法使いとその仲間100人をお城にとじこめました。兄たちと村人は、お城に火をつけて、悪者たちを焼き殺しました。
このできごとは『フィッチャーの鳥』事件として語りつがれています。
そのあと娘はどうしたかですって?
悪者たちをみんな焼き殺したので、もう人殺しにわずらわされることはありませんでした。
幼なじみのパン屋と結婚して、つつましく幸せにくらしました。
おしまい。
《作者註》
◇グリム童話『どろぼうのおむこさん』『人殺し城』『フィッチャーの鳥』
◇ペロー童話『青ひげ』
◇イタリアの昔話『銀の鼻』『3本のカーネーション』
上記6つの昔話のパロディです。
全てネットで読めるので、もし気になったらご一読くださいませ。
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