11~20話

11.ろばの頭のお姫さま

 ある国のお姫さまは、ろばの頭の皮をかぶって暮らしていました。

 食べるときもねむるときもかぶったままで、王さまとお妃さましか、本当の顔を知りません。

 そうやって、ひどく醜い顔をかくしているのだそうです。


 お姫さまは幼いころ、とても美しく、国いちばんの美しさになるといわれていました。

 ところが、悪い魔女に“ろばよりも醜い顔になる呪い”をかけられてしまいました。

 それから、醜さをはじて、自分の顔よりましだという、ろばの皮をかぶっているのです。

 王子さまと結ばれたなら、呪いはけるそうです。

 しかし、ろばの皮をかぶったお姫さまでは、どこへもおよめにいけません。


 お姫さまが年ごろになると、王さまは、たくさんの王子さまをまねきました。お姫さまのおむこさんを探すためです。

 お城にまねかれた王子さまたちは、ろばの皮を見たとたん、みんな帰ってしまいました。

 でも、ひとりだけ、帰らない王子さまがいました。

 王さまは、彼をお城にとどまらせました。


 はじめのうち、彼は、お姫さまのろば頭を見るたびに、ぞおっとしました。

 お姫さまも、彼をきらっていました。この国と財宝がめあての、悪い王子だと思ったのです。

 しかし、彼のふるまいは、お姫さまの想像とちがいました。

 ふしぎなことに、お城の庭で、木々の手入ればかりしているのです。

 お姫さまも、自分の顔を気にしなくてすむので、草花の世話が好きでした。

 ふたりは庭園で会ううちに、話したり、いっしょに庭しごとをしたりするようになりました。

 おたがいの心の美しさを知り、惹かれあっていきました。


 ある日、彼はお姫さまに「あなたにうちあけることがあるんです」と言いました。

「ぼくは、王子ではありません。ただの庭師です。ぼくの国のお城で、はたらいていました。王子さまに顔が似ていたので、身がわりに仕立てられたのです。

 国に帰っても、にせ者と知れても、命はないでしょう。そう思うと、今まで言えませんでした。

 だましていて、ごめんなさい。ぼくには、呪いを解く力はありません。これから王さまに、本当のことを話します。

 あなたはすばらしいひとです。どうか、本物の王子さまと結ばれて、呪いを解いてください。あなたには、幸せになってほしいんです。あなたを、愛しているから」

 お姫さまはとまどいました。

「わたしは、ろばの頭をかぶっているのよ」

「ろばの頭も、今はいとしく思います」

「でも、わたしはろばよりも醜いのよ……」

「外見なんて関係ありません。あなたを愛しているんです――でも、もう行かなくては。さようなら」

「まって!」

とお姫さまは言いました。

「庭師だなんて関係ないわ。あなたを愛しているの」


 ふたりは結婚の約束をしました。

 王さまにすべてを話すと、お姫さまが幸せならばと、ゆるしてくれました。

 ささやかな結婚式がひらかれ、庭師は、ろば頭のはな先にくちづけました。


 式のあと、お姫さまが言いました。

「あなたは、わたしの顔なんて関係ないと言ってくれたわ。命をかけて、わたしの幸せを願ってくれた。それなのにわたしは、自分の醜さばかり気にして、あなたにまで顔をかくしているわ。自分のことばかりね。そんな自分がはずかしくなったの」

 そして、ぶるぶるふるえながら、ゆっくりゆっくり、ろばの頭をぬぎました。

 すると、かがやくほどに美しい顔があらわれました。

 庭師はおどろき、呪いが解けたのかと思いました。

 しかし王さまは、かなしげに首をふり、こっそり庭師にげました。

「呪いは解けてはおらん。魔女がかけた呪いは、“ろばよりも醜い顔になる呪い”ではない。本当は、“ろばよりも醜い顔になったと思いこむ呪い”なのだ。姫はいつだって美しかった。しかし、これまでずっと、そして今も、自分は醜いと思いこんでおるのだ」


 お姫さまは、ときどき皮をぬいで過ごすようになりました。笑顔を見せることもあります。

 しかし、美しいとほめられても、信じることはありません。

 お姫さまの呪いは、一生解けることはないでしょう。

 でも、愛しあうふたりは、いっしょに笑ったり、怒ったり、苦しんだり、楽しんだりする日々を、それなりに幸せに暮らしています。


 おしまい。

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