judgement が 下る 日


 ここ数日、9月とは思えない肌寒さに目覚める日々を過ごしている。




「おはようございます。早いですね」

「おはようございます。お味噌汁作ってみたんですが」

「本当に?!」



 超嬉しい!と喜んだものの口にしてみると何かが足りない。

 作った張本人もそう感じているようで首を傾げている。二人で向かい合って、テイストの揃っていないお椀を持ったまま沈黙が流れる。スマホを手に取りかけて「あっ」と声が漏れた。調べようなんてないのだ。



 味噌汁には味噌と具と鰹節と出汁と、他に何が必要だっただろうか。わからないとモヤモヤする。



「あ・・・鰹節と出汁ですか」  

「あ、入ってないですか」


 

 顆粒のやつが鰹節とかワカメとかの引き出しに入っているのだと伝えておけばよかった。



「申し訳ございませんでした」

「いえ、ごめんなさい。僕が言ってませんでしたから」



 それにパンチが効いていないだけで十分美味しい。寝起きの脳内が活性化されてゆくのを感じた。




「温まります」

「そうですね」




 ふうっ、と息を吐く。温かい。




「あの、ご予定が無ければなんですが午後から図書館へ行きませんか?僕の教習が終わったら」

「はい、是非ご一緒させてください」



 この時代ではDVDも見られないしネット検索もできないんだけどね。ひたすら、地道に文献を探すのだ!結構楽しいお。図書館へ通うこともライフワークになりつつある。調べたいことは次々と出てくるし、あそこへ行けばコピー機もあった。


 お茶碗とかお皿も買いに行きたいな。本当はIKEAに行きたいけど代替案を考えておこう。




 もう世間では秋と呼んでも遜色ない季節になっているのだろう、また寺谷くんから葉書が届いている。二学期になって美術部に入ったのだそうだ。二年生でだいぶ出遅れたが頑張りたいとの旨が丁寧な文字で記されている。僕が送った葉書は構図が良かったと感想まで添えてくれていた。今回の絵は小さくて、小さな空で小さな天使がラッパを吹いている。





 *****   *****   *****   ***




 朝倉さんの進捗に合わせて教習時間を調整するのも大詰めになってきた。うっかり僕が先に卒業するようなことがあってはならない。そこは慎重に、最近は一日1コマで進めてきた。先述の通り通常の時間割と30分ずらす。それだけでも石田先生を2コマ拘束することができる。



 彼女が卒業検定を受ける日も、その時間に石田先生を拘束していればいい。朝倉さんが仮免の試験を受ける時にもそうした。


 一度でも石田先生と朝倉さんを接触させたくはなかった。どんな難癖をつけられるかわかったものではない、先生だって焦っている筈だった。朝倉さんを見つければガン見だし、帰り際は玄関や二階の自習室付近で廊下をやたらウロチョロしている。とっとと声をかけろよと思う。教習以外の時間なら僕は邪魔するどころか気を利かせる準備はできているのに。




 そしてまさに今日がその、朝倉さんの卒業検定試験だった。朝一番で通常の教習と同じ時間に試験の説明が始まり、それが30分程度かかったかと思う。くじ引きで乗車コースを選ぶんだっけ。懐かしい。それらを経て彼女の合否は既に出ている時間だろう。


 


 2時間の高速道路教習から戻り駐車場でエンジンを切ると、石田先生は僕に卒業検定の予約をするように指示を出した。



「承知いたしました」



 朝倉さんが不合格でなければこれで予定通りだ。



「お世話になりました、石田先生」

「こちらこそご指名ありがとうございました」


 

 なんか卑屈に聞こえるんだよなあ。まあ、キャラってものがある。

 僕は石田先生に名刺を差し出した。



「これ僕の名刺です」

「・・・・・ありがとうございます」



 受け取ってもらえない可能性も考えていたのでひとまず安心する。何か役に立てることもあるかもしれないし、何より



 これがヒントになればいい。

 


 

「もう卒検にも受かったようなご様子ですが」

「あははー、落ちたらどーしよー緊張するーう」



 僕が棒読みで答えると「ふん」と先生が鼻で笑う。



「では私も」

「ありがとうございます!」



 石田先生がポケットから名刺ケースを取り出した。名刺にボールペンで何か書き込んだのを見て、神経質そうな字を予想したが小学生男子のような文字に親近感が湧く。



「本当は生徒さんとのこういった交流は禁止されているんですが。片石さんにはご指名いただいたこともありますし」

「はい」


 

 “生徒とのこういった交流は禁止されている”

 そう言われるのは想定していた。


 車内を重苦しい沈黙が流れている。それが僕との別れを惜しむような空気でないのは明確だ。彼の視線は出入口に釘付けだった。





「先生は」



 僕の声で先生が我に返り、こっちを見た。



「先生は未来でとても後悔していました」





「・・・何を―――――」




 それからもう一度、やはり気になるのか出入口に先生は視線をやった。僕が呼び出しておいた朝倉さんが立っている。彼女の合否によって僕は卒検を失敗するか否かを決める所存だが、表情から察する限り合格したとみて間違いないだろう。安堵や開放感を浮かべているように見えた。




「これが最後ですよ」





 先生、渡すんだ!


 朝倉さんにも名刺を!それが一番手っ取り早い!













🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼




 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面(クライマックス)で登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。



 


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