推移する


 あのツッパリくん―—————池袋で知り合った寺谷くんから手書きの絵葉書が届いた。焼けるような朱い夕空は力強く熱気を感じるほどで、それに対して硬い質感の丸テーブルに置かれたアイスティーが汗をかいているのが涼し気で。そこはクリームソーダじゃないんだ?と思わなくもなかった。その向こうにはバルコニーなのか、水色を帯びた手摺りがある。別荘だろうか。



 なんだ、上手なんじゃないか。


 返事を書こうと思うのだが僕は絵心がないのでAIにイメージ画像のプロンプトを、といきたいところだがAIもプリンターも無い。なので図書館へ行って季語の載っている本からまずは石榴をコピーした。


 したのはいいが。その夜テレビを見ていて花言葉が気になったので、借りてきた本を見てみた。するとあまりよろしくはない意味合いがあるようだった。寺谷くんが花言葉を調べるような趣味が無いことを願い、プロセルピナにまで話を広げるのは先に延ばしておこうと思う。情報は小出しにしてこそ意味を成すことがある。


 本を捲ってコピーを取って切って貼って1枚の絵に仕上げる。アナログで手間をかけるのは存外に楽しい作業だと知った。それからふと思い付いてExcelでHEISEI@Get backers略してH@Gの印刷用原稿データを作った。何処へ持ち込めばいいものかは鋭意検討中であるが、完成すればハガキにも封筒にも印字できる。今回は社名と住所と電話番号のみだけどロゴも作りたいな。



 葉書には彼からのメッセージが小さく添えてあって、秋になったらまた葉書を送ってくれるのだというから一つ楽しみができたと僕は嬉しくなる。寺谷くんの書く文字は丁寧で読みやすくて、きっと書道を習っていたのだろうと思われた。やっぱりこの風景は別荘なのだろうか。



 僕も郵便局へ行き葉書を買っ・・―――――待って?





 郵便局の窓口に立ち葉書の安さに驚く。窓口の人が間違えているのではないかと疑った。40円って。未来にいる時には葉書なんて買ったことがあるのかすら思い出せないけれど、もっとずっと高かったのでは。確か会社の壁に郵便料金変更のお知らせが貼ってあった。ラミネートの反射する赤ばかりが印象に残って金額は頭に入っていない。




「どうかされましたか?」

「あ、いえ―――――」




 何枚かストックを作っておくのも良いかもしれないと思っていたので好都合ではあるのかもしれない。季節に拘らなければいつでも出せる。と考える反面、季語に拘るのも楽しそうだとも思い始めている。季語のイラストを選ぶのも。図書館へ行くことが、読む本を考えることが密かな楽しみになりつつあった。だってネットが繋がらないと何もできないんだもの。




「とりあえず、5枚ください」

「かしこまりました」




 窓口の女性がやけに大きな音のレジを操作する。コンビニのコピーは葉書サイズに対応しているだろうか。できなければ課長にお願いしてみよう。そんなことを考えながら400円を握りしめている。準備しておいた昭和63年以前に製造された硬貨だからご安心ください。





 ******************





 窓の外で紅葉が始まっているのは季節がバグっているかのような感覚だった。まだ九月なのに紅葉とは。そういえば子供の頃、秋の遠足が9月であることに違和感を禁じえなかった。9月なんて夏じゃん!余裕でビーチサンダルだぞ!



 わかっている。多分それは未来ぼくがバグっているのだということは。





「路上まだ怖いよ」

「大丈夫ですよ」




 怖いというのは本当だと思うが、朝倉さんの表情から差し迫った様子は見られない。二階の廊下でアイスを食べていた。エアコンは稼働していないようで窓が開いている。たまに吹き込む風で凌げる、これがきっと本来の残暑だ。


 第4段階において僕ができたことと言えば通常の教習開始時間と30分ずらして石田先生に予約を入れたくらいだ。教習は9:30から始まるから10:00から予約しておけば少なくとも9:30からと10:30からの2コマ分は彼を拘束できる、午前と午後で一時間ずつやれば、どうだ!


 それが功を奏したかは不明だが、朝倉さんの教習に石田先生が当たることは僕が指名して以来ここまで一度も無かった。僕と違って通常の教習カリキュラムを受講している朝倉さんは1日に2コマしか乗車ができない。それは混んでいようが空いていようが変わりなかった。これも好都合だ。朝倉さんが乗車する二時間だけ石田先生の動きを封じることができればいい。石田先生が休みなら僥倖でしかない。


 



 慎重な石田先生はきっと「人からどう見られるか、どう思われるか」

・・・何を言われるかを気にしている。まあね、恥をかくのは誰だって怖いよ。まして気になる異性のことで冷やかされるのなんて想像したら。そんな経験が過去にあったりでもしたら―――――


 

 僕にはわからないけれど。


 だから朝倉さんと接点を持ちたいと切望しつつも、同僚の目を気にしているのだろう。二ヶ月後には会うこともなくなる僕の目すら気にしていたように思う。慎重を通り越している気がしなくもないが、彼はそうなのだ。なりふり構わず朝倉さんを逆指名するという事態にまでは至らないという確信に近いものがあった。


 このまま石田先生と朝倉さんの接触をするだけで済みそうだと考えれば順調に進んでいるかのように思う。つまりこの件は“安泰”だ。一件落着となるだろう。





 だからこそ僕には“ふと”気になることができた。



 未来はどうなっているだろうか。もしも変化が起これば僕の記憶も変わるのだろうか。それに気付くことはあるのだろうか、矛盾みたいなものに。僕の記憶も書き換えられているとしたら。手書きでメモは取ってあるが変わっている可能性も消すことはできない。


 共有フォルダを開いてみることにした。とりあえず今できることはそのくらいだ。

 













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 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面クライマックスで登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 応募作は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。



 




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