case1:要因を排除せよ
少し前の話になるが朝倉さんは無事に―――――前回よりも早く―――――仮免に合格した。筆記は満点だった。
仮免試験を一度でパスできたこともあるが、共有フォルダのファイルに書かれていた時期より3週間以上は早い。これはノートに手書きでメモを残してあった。少し思うところがあるからね。
前回は二度不合格になり「一度時間を置きたい」という朝倉さんの申し出を石田先生と同じ班だという教官は聞こうとしなかった。結局翌日も試験を受けることを強いられ、諦めとプレッシャーの中で受けた仮免試験は三日連続で不合格となる。自分の身に起こったらと考えただけで吐きそうになった。それだけで五万円はかかったのではなかろうか。うわあ、考えたくもない。更に卒検でも二回不合格になっている。
同僚の教官たちは何を思って朝倉さんに連日の試験を勧めたか。高校生たちの夏休みは終わっているから時期的に混雑はしていなかったと思われる。時間にも車両にも余裕はあったはずだ。
―――集団の心理って恐ろしい。石田先生を応援したかったのか鬱憤を晴らす捌け口が欲しかったのか。後ろ盾の無い若い女生徒に対して強気だったのか、そこまでは解らない。少なくとも朝倉さんに対して親身だったとは考えられなかった。
共感能力が悪い方向へ働くことは時代を問わず存在するのだと思う。石田先生を応援するという名目の基であれば朝倉さんを引き留めることに対する罪悪感も薄かったことだろう。今ここには一般人が声を上げる手段は少ない。
それから石田先生の吹聴が無かったことが思いの外大きいのかもしれないと、誰とも連絡を取らない夜に独り僕は考えていた。石田先生が朝倉さんに関わったことで教習を長引かせたという確信を持ちつつあった。先入観というものも、また恐ろしい。全く身に覚えがなくとも、こちらに一分の非などなくともそういう目で見られてしまう。・・ことがある、で済むのならばいい。
えてして最悪の状況を招く時というのは悪い
高校生ではない若い女性の生徒が入ってきた。(金蔓?)
保護者の後ろ盾は無い、しかも若い女性なら文句も言ってこないだろう。(金蔓!)
その生徒に石田先生が好意を持っている。(引き延ばせ!)
そんな教官たちの思考を想像してみる。胸糞が悪い。
石田先生にはきっと一縷の悪意も無くて不器用なだけなのだと思う。引き留めようという意思というよりは、半分は―――――‥…一日でも長く引き留めていられれば、くらいの儚いとも呼べる願望だったのではないかと思う。もうあと半分は照れ隠しだ。それが全ての災いをもたらしているのだが。
彼女を褒めれば「おまえ朝倉のこと好きなんだろー!」と冷やかされるような気でもしていたのではないか。口に出して言われなくても朝倉さんへの好意が知れてしまう事態は避けたかっただろう。その視点から考えると余計な接触を防げた分だけ僕は彼のことも少しは救えたのかもしれない。
そして九月に入ると高校生の人口が減り、事前の予約をしなくても乗車できるくらいには空いていた。
「もう人も少なくなっていますし、指名しなくても乗れますよ?」
「いいえ。最後までお願いしたいです」
石田先生からの提案…とまではいかない助言・・・というよりは腹を探られたりもしたが僕はキッパリとお断りした。乗車の人数に余裕があるということは石田先生の方から朝倉さんを逆指名しかねない。前回は更に、僕が存在しなかった一人分の空きがあった。今回は僕が指名することで石田先生が朝倉さんについて周りに言及することを良くも悪くもかなりセーブできたはずだ。
***** ***** ***** ***
「おめでとうございます!」
「ありがとう!」
朝倉さんとアイスのてっぺんをぶつけ合う。その日は奮発して17のアイスにした。正直いうと僕は棒のアイスを食べるのが下手で、最後の一口が地面に落ちてしまったことが何度あったかわからない。フレーバーが気になっていたものの、それ故17にはなかなか手が出せないでいた。
「ここの会計は任せろ!」
「え!何それ?」
財布は残念ながらマジックテープタイプではないけれど。朝倉さんはまん丸くした目をキラキラさせる。
「夏海くん、やっぱ面白い」
「フッフフ・・・お祝いをさせてください」
「・・・じゃあ、ごちそうになる」
いただきますと朝倉さんが手を合わせる。その一瞬前、少し寂しそうに顔
を曇らせたように見えたのはきっと僕の願望なのだけれど。と言っても朝倉さんを悲しませたいわけではない。この時代は一期一会どころか“卒業”は別離を意味している。今まで仲良くしていたからといって――――――――
[仲良くしておきたい人には住所と電話番号を聞け]
[また会いたいなら手紙を書くんだ]
[連絡を途絶えさせるな]
[音信不通になった瞬間で全部終わりだからな]
[そうなったらテレビで探してもらうくらいしか手段は無いよな]
[いきなりハードル上がるなw]
僕にはまだ、あまりピンとこないのだけれど皆そう言っていたから。
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“あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の
応募作は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。
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