昭和のツッパリが現れた!Ⅱ▷仲間になる
「親切にありがとう、助かりました」
店の前まで連れてきてくれた彼に、僕は敬意を払い深々と頭を下げる。一期一会に感謝した。
「ああ・・・俺も覗いてく」
「え?」
「あんたは―――――絵を描くのか?」
あうー。いえ、あの、その。
「書き始めたいかなって思って」
「形から入るタイプか」
「まあ、はい」
「俺もそうなんだ」
この十代の少年は、実際には僕よりもずっと年上なのだけど。とにかく僕も年を取ったのだと思わざる得ない感情が込み上げた。
******************
あ、額縁とかも売ってるんだ?
ていうか額縁って売ってるんだ?
そして画材に分類されてるんだ。自分が絵のことは何もわからないから、もし突っ込んだ質問をされたら会話を続けられる自信がない。キャンバスがこんなに重厚だなんて知らなかった。油絵と水彩絵の具の違いがわからない。
店内は静かだった。クラシックの音楽が流れていて、人の話し声はほとんどしない。画材屋さんへ来るのは物凄く尖がった芸術的な人かと思っていたが、それは偏見だったようだ。店内を歩くのは物静かそうな雰囲気を持つ人が多い。もっともこの時代に髪を染めている人は稀少だったかと思われる。
だからツッパリくんは目立った。いつの間にか別の場所を見ていたようで見失ったが、すぐに見つけることができた。
彼は木の板でできた多分パレットと思われる物と筆を何本か手に持っていた。それから水彩絵の具の並ぶ棚の前でしばらく迷った結果12色のセットを手に取る。小学校で使ったやつよりもチューブが大きいし頑丈そうだ。長持ちしそう。
「買うの?」
僕が声をかけると彼は“ビクッ”と体を強張らせた。随分と集中していたのだろう。さっきから横に立っていたのに気が付かなかったくらいだ。
「あ、ごめん」
彼は無言で頷く。僕に向かって「何か買わないのか」と聞いてこなかったことに気が付いたのは、彼と別れて帰りの電車に乗ってからだ。
「買ってくるから待っててくれ」
「え、はい」
彼はレジの前に立ち、学生鞄からウグイス色の封筒を取り出した。手を突っ込んでもどかしそうに千円札を引っ張り出すと木製のカルトンに何枚か置く。店員さんが少し身構えているのがわかった。その気持ちは解る。
「待たせたな」
「いいえ」
「なあ、やっぱクリームソーダおごらせてくれよ」
「そんな、いいよ。ていうか僕あんまり時間無いんだ」
てゆーか、どうしてもクリームソーダなんだ?
彼も腕時計を見た。思ったより時間が経過していたようだ。夏期講習がこの後あるらしい。
「じゃあ、また会おうぜ」
なんと!予想していなかった展開だ!
「俺は寺谷っていうんだ、あんたは?」
「あ、片石です」
僕は名刺を差し出した。一瞬戸惑った寺谷くんは両手でそれを受け取った。まだ新しい名刺は来ていないから、それは未来で製造されたものだぞ寺谷少年よ。
「社長さんかよ!すげえんだな」
「すごくはないんだ」
個人事業主というものについては、もしまたお会いする機会が来ればお話しようか。
「今日はありがとうな」
「え、そんな。こちらこそ」
連れて行ってもらったのは僕の方なのにお礼を言われるなんて。JRの改札前で別れると、彼は画材の入った紙袋を宝物みたいに抱きしめて山手線内回りの方向へ歩き出す。
髪色のせいもあるのかもしれないが、なんだか輝いて見えた。夏休みが終わったら黒に戻すのかな。眉毛の再生は間に合うまい。すれ違う人が寺谷くんを
***** ***** ***** ***
「午前中はお出かけだったんですか?」
「あ、はい。ちょっくら池袋まで」
「ふうん」
石田先生は僕の回答に不服と見える。そもそも機嫌がよろしくないのだと思われた。今日は朝倉さんの姿が見えないのだから。
彼女は今日、草加にいる恩師の元へ行っている。確か今年の社会保険労務士の試験日はそろそろで、来年の受験に照準を合わせて傾向を調査し対策を練っているところなのだ。
「池袋?それはお友達と、ですか?」
「・・・ええ、はい。そうですね、男友達と」
電話番号を交換したのだから、そう呼んでも差し支えないだろう。寺谷くんは
「池袋って何かあります?そこは右折です」
朝倉さんが絡んでいないことが判明した途端に石田先生の声のトーンが上がる。
「はい、右折します」
ランチもしたかったし、本当はもう少しParcoを見て回りたかったがまた改めて行けばいい。そういえばサンシャイン前のゲームセンターは既にあるのだろうか。ハンズは?ウーパールーパーって日本にもういるんだっけ?
「何でもありますよ、池袋は」
「ふうん」
いかにも興味無さそうな返事だった。
「あ~」
だから先生の興味を引きたかった、というわけではないが縁石に上ってみることにした。石田先生は「お疲れ様でした」と唱えた。嬉しそうだった。
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“あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の
応募作は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。
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