池袋東口 

 電車内の光景が新鮮だ。


 お話するか本を読むか眠っているか、それ以外の人は特に何もしていない。未来って、この「何もしていない人」が珍しかったから。僕も今その何もしてない人になって考えを巡らせている。こういう時間の潰し方があるんて。


 朝倉さんが試験を受ける日には絶対に石田先生を捕まえておかなければならない。彼が試験官になれば落とされる可能性がある、とは邪推が過ぎるかもしれないが残念ながら先生には実績があった。だから朝倉さんより早く卒業してしまわないように僕はできるだけポンコツを装わなければならない。頭よくないとバカのフリはできないって言うしね。


 ミッションがある日は決まっていたから、朝倉さんには事前に話してあった。




「だったら私も休みにしよう。用事済ませてきちゃう」




 その日は夕方まで用事があるのだと告げると朝倉さんはそう言った。




「夏海くんは予定を前以て教えてくれるから助かるよね。そういうの男の人ってあんまりできないじゃない?」





 ・・・・・もしかして朝倉さん彼氏いる!?




 不思議ではなかった。それならそうと石田先生をバッサリ斬ってあげて欲しいなあ。でも聞かれていないのに「彼氏いるんです☆」アピールなんてするような朝倉さんでもない。それにお付き合いしている人がいるなら猶更、結婚や出産を諦めるなんてことをさせてはいけない。




 そんなことを考えながら、僕は京浜東北線に揺られて池袋を目指していた。今日がその日なのである。





[その頃まだ埼京線は走ってないからな]

[上野まで京浜東北線で行って山手線内回りで行け]

[オッサンたち嘘教えんなw]

[大宮ー赤羽間しか走ってない]

【何が本当なんだよw】

[赤羽線だよな]

[なっつwww]


 



 なっつ・・・!!




 「懐かしい」という意味だとはすぐにわかったけれど、身バレしたのではないかと一瞬焦ってしまったジャマイカ。


 それはさておき結局自分で調べてみたら、今より三年ほど前に埼京線が開通しているのを知った。勿論未来あっちにいる間に調べた。でも上野まで行ってもいいな、とも考えている。パンダが見たい。カピバラもいるかな。楽しみだ。


 でも今日は夕方から石田先生を予約してしまったから上野へはまた別の機会に行くことにする。


 



「12時45分を過ぎて ラーメン屋さんから3番目に出てくる男性に世界堂への行き方を聞く」とあった。まだ過去こっちへ来る前のこと、鳥海社長との打ち合わせでの話だ。



「女性が出てきたら人数に数えますか?」

「いや、数えなくていい」



 質問を想定していたように鳥海社長の答えは迅速だった。



 「承知しました」



 指示された内容のことを後になってから確認できないことを懸念して、思いつく限り質疑応答と打ち合わせは行ってきた。ただ、あくまでもだ。思いつかなかったことが起こればお手上げだ。


 僕は東口から出て正面の横断歩道を渡る。それからキンカ堂を通り過ぎて指示のあったラーメン屋を確認した。店には入らず一旦は通り過ぎる。まだ少しは時間があった。僕のいた時代では居酒屋の入ったビルが多い通りだったように思う。


 下見した記憶の中の写真館はあるか、劇場はあるか、散策してみたかった。何処かで昼食もとっておきたい。今は11時を過ぎたところだった。ミッションが終わってからでも良いんだけどね、道を聞くだけだもの。





******************




 12:44



 従業員の若い女性が暖簾をしまう。休憩に入るのか、今日はもう閉店なのか。先ほど公衆電話から時報を確認して腕時計とスマホの時計をピッタリに合わせてある。またドアが開いて会社員らしい中年男性が出てきた。心臓の音が大きく鳴って僕は腕時計に目を落とした。あと数秒で45分になるところだった。



 12:45


 20秒になるかという時だ。男性の二人連れが話をしながら出てきた。開いたドアから彼らに投げかけられたと思われる店員さんの御礼の叫びが聞こえる。


 二人は少し年が離れているように見えるが、揃いの制服を着ていることから同じ店の従業員かと思われた。そしてドアが再び開いた―――――並んでいたサラリーマンらしき男性が店内に通される。僕は並んでいる客が男性ばかりなことに気が付いた。


 ひょっとしたらこの時代には、女性がラーメン屋さんに並ぶという文化が根付いていなかったのではないか。だから鳥海社長は女性客を数えなくていいと言ったのでは。おっと、扉が開いた。三人目に出てきたのは高校生だ。




 12:47


 ツンツンに立てられた髪はブリーチしっぱなしで色が入っていない。両手を夏の学生服のポケットにinしてガムを噛んでいる。あまつさえ膨らませた。風船ガムというやつか。



 あれはヤンキーなんかじゃない。ツッパリだ。


 

 ツッパリに画材屋さんの場所なんて聞いて話が抉れたりしないだろうか。そして僕は重大なことを思い出す。僕、人見知りなんですけど。しかも話しかける相手がツッパリだなんてハードルの高さよ。


 昭和こっちへ来てからというもの、接する相手は向こうから接近してきてくれることが多かったので油断していた。忘れていた方が幸せだったかもしれない。また心臓の音が聞こえる。




 でもやるしかない。





「あの、すみません」





 目の前を通り過ぎた学生服姿ツッパリに声をかけた。彼は立ち止まり振り返って、訝し気な表情で僕を見る。怖すぎる。背中を汗が伝った。






「世界堂って、どうやって行けばいいですか?」

















🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼




 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面クライマックスで登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 応募作は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。



 









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