インベーダーゲームのある風景

「温泉どうだった?」

「ふっ・・・それはもう最高でした」

「そうだよねえ!」




 通り道に温泉があるのだと前回会った時に話してあった。通らなくても行けたのだけれども。どちらかというと通らない方が近道だ。でも道中、自分の好きなように寄り道をして思い付きで店に入ったり池で鯉に餌を与えたりするのは楽しかった。次は絶対に車で行きたい。




「いいなあ。そういうの凄く憧れる」

「免許取れたら幾らでもできるじゃないですか」

「・・・できるね!」




 わあ、楽しみ!と彼女は両手の指先をパチパチ合わせる。

 大丈夫です、あなたなら何でも実現できる。どんなことでも―――――――


 ああ、そうだ。




「ねえ聞いてくださいよ!喫茶店のテーブルがインベーダーゲームだったんです!!」



 大事なことを思い出した僕は早口で鼻息を荒くする。スマホでこっそり撮った写真を本当は見せたかった。朝倉さんに見せたくて撮ったのだ。この時代でたった一人の友人でアイス仲間の朝倉さんに見て欲しかった。僕はSNSをやっていなかったけれど、写真を見て欲しいっていうのはこんな気持ちなのだろうか。でも少し違う気もする。


 それからファミレスには占いの自動販売機???もテーブルに置かれていた。

 あ、これ占いなんだ?と驚きつつ、やっぱり写真を撮った。過去こっちへ来てすぐ課長と初めてお昼ご飯を食べた店にもあったのは憶えている。その時にはインテリアか何かだと思っていて、まさかそんな実用的な物だとは知らなかったんだ。



「え?あの占い?」

「はい!なんか円形の下に台座があって」



 印刷して見せようか、どうやって?プリンターは持って来なかった。というか所有していなかった。この時代にコピー機が設置されたコンビニは少ないのではないだろうか。コンビニ自体がそう多くない。


 課長に話してみるか、在庫でもあれば―――――いや待て。家庭用のプリンターなんて存在するのか、この時代に。考えてみたらスマホから写真を印刷できる機能自体が技術面で絶望的ではなかろうか。




「・・・・・どこ・・・結構ない?」と朝倉さんが首を傾げるのを見て我に返る。



 あ、こっちでは結構あるものなのか。何処にでも、という言葉を飲み込んでくれたのがわかる。




「夏海くんもしかして、あんまりファミレスとか行かない?」

「行かないです」




 これには即答した。特にこの時代では未だ、あの日に課長と行った一回だけだ。


 実年齢で19歳だった頃の僕は行っていたのだと思う。就職したばかりで目まぐるしかったのでそれほど鮮明に記憶してはいないが、それだけを楽しみに午前中を乗り切った達成感のようなものと何とも言えない後ろめたさを噛み締めていたのは心に残っている。独り立ちできた解放感と喪失感と劣等感と―――。




「私もだよ。外食なんて大学入ってから初めて友達と行ったの、ケンタッキーに」

「僕は高校デビューですね、バイトしてたんで」

「高校デビューって」



 新しい、と朝倉さんが笑った。


 ファーストフード店でアルバイトを始めるまで、外食した記憶なんてほとんど無かい。小学生の頃に都内に住む伯母に連れて行ってもらったことがあるくらいだ。それは片手で数えられるくらいの回数で、多分。なんだか教科書に載っているみたいに昔の記憶のようで、とてもとても遠くにある思い出に感じる。未来でのことを思い出そうとするとここ数日そんな感覚があった。自分の記憶ではないもののように―――――いや、そこまでではないのだけれど。





「私お子様ランチって食べたことないんだ」

「あ、僕もないんです!確か大人は頼めないんですよね。ハッピーセットがせいぜいかと・・」

「ハッピーなセット?何それ、幸せが詰まってそう」




 しまった、ハッピーセットも未だ存在しないのか!在ったとしてもファミリー層以外には浸透していないのかもしれない。それに朝倉さんくらいの年頃だとファーストフードへもあまり行かないのかもしれなかった。インターネットを封じられた僕に、この「かもしれない」たちを調べる術は無い。




********************




 あまり車で出かけたことが無いという点でも朝倉さんとは意見が合った。これは単なる経験の少なさかとも感じるが、そこが実は自動車を運転するにあたって重要なのだと僕は実感していた。運転するのを間近で見たことが有るのと無いのでは感覚の掴み方が全く変わってくる。僕はそうだった。就職したばかりの頃、先輩の配達に同行させてもらったのはと感じていた。それまで僕はほとんど“車に乗っている側”の世界を知らなかった。



「アイス買ってもいい?おばあちゃんが楽しみにしてるから。“今日は学校の日でしょ”って」

「・・・買って帰りましょう。おばあちゃんかわいいですね」

「ありがとう。かわいいの」




「大好き」と、歌うように朝倉さんは言う。




 「私も余生はおばあちゃんみたいになりたい」





 残念ながら余生なんて当分は無理だ。僕の知っているあなたは60代半ばの美魔女。実際には画像ですら容姿を見たことは無い。ただ、声で知っている未来の朝倉さんはキレッキレで音楽番組を取り仕切る現役バリバリのラジオDJだった。




「夏海くんて、なんだか未来から来た人みたい」




 朝倉さんが自動販売機に小銭を投入しながら呟いた。










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 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面クライマックスで登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 応募作は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。
















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