『18:00』


 本当に助かったのだ。真理子さんに至っては、あわや今後の人生を分かつところだったのを。なんて話はできないので僕らも話を合わせた。「怖かったですねー」なんちゃって。


 そして思い出してほしい。僕らが初めて出会った日にAvantiで起きたことを。

 真理子さんはこういった事態を予測していて自ら防御線を張り、狙い通りに回避したのだ。やはり名軍師である。


 パトカーについては、もちろん偶然でこんなことが起きるわけがない。何度もいうように今日この時間にここを通った人はいないのだから。


 小谷さんに事情を話して、この時間この周辺をパトロールしてもらえるように頼んでおいたのだ。提案者は言うまでもなく由樹軍師だった。小谷さんも上手く交渉してくれたのだと思う。


 彼のいる市民生活課は交通関係や空き巣対策も取り扱っているため警察には顔が利くらしかった。個人的な頼みであれば聞いてもらえるかわからないが、「複数の地域住民から不安の声が上がってきた」とでも言えば聞き入れてくれるかもしれないとまで由樹さんは進言していた。恐るべし我が軍師。




「・・・なんだか凄く長い時間が経った気分」

「ですね」

「―――本当に」



 僕も大いに共感して時計を見る。役所を出てから30分も経っていない。あの後一度だけ振り返ったが早瀬千聖の姿は無かった。でもまた出てくるかもしれない。無駄に行動力だけはあるような男だ。


 雨の路地を三人で歩き出した。まだ少し僕の膝は震えている。他に歩いている人の姿はなかったが、大通りに連なる橋の曲がり角から傘をさした女性が姿を現した。遠目にも颯爽としていて清潔感と知的な雰囲気があるのがわかる。なんとなくだが、彼女が真理子さんを発見してくれた看護婦さんなのではないかという気がした。



 後ろから由樹さんの声がする。



「真理子さん、明日もご一緒させてもらってもいいですか?」



 そうすれば早瀬千聖はきっと諦めて―――――諦めなくても明後日には由美子さんのところに行く。だから僕たちは今度は、そっちを防ぐ。さっき飛行船での軍議でも話したことだ。僕は時計を見た。拭っても拭っても風防には雨が落ちてくる。18:00が近づいていた。



「真理子さん」

「・・あ、うん」

「しばらくの間は念の為、明後日以降もできるだけ一人では行動しないでください」

「うん、気を付ける。明日はまたお願い」



 真理子さんが僕を見上げてくる。下がり目の瞳が揺れている理由はわからない。そして今、気配を感じなくなったのが振り返らなくてもわかった。真理子さんはもう大丈夫だ、未来は変わったんだ。・・・僕はしっかりしなければならない。




「ねえ夏海くん。本当は何か―――――」


 

 何か知っているのかと問いたいのかもしれなかった。実は早瀬を追っている警察なの?とかね。もしも彼女が何かを想像していて、万が一それが的中していたとしたら。


 そうだとしたら。でも、そんなバカなとすぐに思うだろう。僕だって知っているなんて答えるわけにはいかない。どうして?なんて追及されでもすれば答えようが―――


 これがもっと過去であれば、有ったとも考えられるのだが。




―――――――― ――――― ―――



(さすがに昭和後期から平成に入っちゃうとなあ。まあまあリアルな情報が残るじゃん?)


 マユルくんの言葉に僕は頷いた。


(確かに。)


 そうなんだよね、それは僕にも想像できた。もともとネット掲示板で受けた依頼だ。


〔平成になる前なんだけど、未来から来た>1って名乗る男に助けられた話する?〕


 なんて書き込みが蔓延る可能性を否定できない。しかしながら昭和初期だとかもっとずっと昔のことであれば―――例え文書として残っていたとしても云い伝えか都市伝説くらいにしか誰も思うまい。民話のひとつとしてすぐに廃れたことだろう。



 ――――――― ――――― ―――




「あら、由樹くんは・・?」



 後ろを振り向いた真理子さんが言った。そこには誰もいない。ひたすら雨が降るだけだった。



「今日は急ぎでご実家に帰るからと言ってたんで」


「そうなの?お待たせしちゃったもんね、悪いことしたわ」

「―――いいえ。真理子さん、寒くないですか?」

「ううん、少し冷えたかもね。夏海くんも風邪ひかないように気を付けて」

「ありがとうございます」



 よほど寒そうな顔をしてしまっていただろうか。真理子さんは地元出身だから少しはこの寒さに慣れているのだと思うが、初心者の僕には冷え込みが堪えた。しかもさっき雨に打たれちゃったし。


 ほんの数メートルで駐車場に到着した。停めてあった深緑色の車の中はラベンダーの香りがする。ルームミラーにぶら下がった袋の名前はポプリというらしかった。真理子さんはすぐに暖房をつけてくれた。




 今日は急ぎでご実家に帰るからと言ってたんで



 マユルくんから追っての連絡が入った時に考えておいた言い訳だった。まさか「未来に戻りました」なんて本当のことは言えない。ほんの数メートルを歩く間に由樹さんは消えてしまった。


 戻った令和の未来では雨が降っているだろうか。由樹さんは傘をさしたままだった。



 

 *****   *****   *****   ***




 真理子さんに車で送ってもらう道中、駅前に早瀬千聖の後ろ姿を見かけた。うっかり気付かれでもしてナンバーを覚えられては厄介なので引き返し、遠回りで旅館に向かってもらった。



「ありがとうございました。では、また明日」

「御足労をおかけしますが、よろしくお願いします」



 仰々しくお辞儀するのは三文芝居の延長だった。ふざけ合う余裕が僕にも真理子さんにも少し戻ってこようとしていた。平和な証拠である。


 お礼を述べて真理子さんと別れて、この後の食事は全て一人分キャンセルしたい旨をフロントで申し出た。料金は現金で前払いしてあるから旅館側に迷惑がかかっていなければいいな、と思う。まずは風呂に入りたかった。

 














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 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面(クライマックス)で登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。



 ダサ1-climax












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