とある夕方の桜坂

 予定では現在、由樹さんは駐車場側―――早瀬千聖と少し距離を取って桜坂の向こう、公園前の付近に立っている。ここからでは確認できない。



 二手に分かれてはどうかと言い出したのは由樹さんだった。さっき飛行船で提案があって、それならば僕が待機していようと申し出たところ却下された。



「僕が真理子さんと一緒に歩くよりも夏海さんが一緒の方が―――言い方はアレですが、怖いと思うんです。抑制になるというか」

「・・・僕そんなに威圧的ですかね?」



 えー、ちょっとショック。



「ふふふ。僕より背も高いですし、この時代に軟骨ピアスをしている男性がどのくらいいると思いますか?」

「ああ。あー、そっか」



 ふふふ。と二人で笑った。まさかピアスが役に立つなんて。




「イキッてたわけではなくて、高校生の頃に決意の証明みたいなつもりで開けたんです」

「かっこいいです」



 由樹さんはそれ以上は追及してこなかった。僕に興味なんて無いのかな。余計なことを話してしまったかな、なんて少しおセンチになったり。そんな作戦会議があっての我が軍師による采配である。オラつき方なんて知らないから僕はただ彼女の隣を歩くだけだ。せめて堂々としていようと猫背を伸ばす。


 それでも絡まれた場合には由樹さんが大声で人を呼ぶ手筈になっていた。それが間に合わなければ僕だって盾になるくらいはできると思う。荒事になんか慣れていないから怖いけど、そのつもりでいる。真理子さんを無事に駐車場まで送り届けることができれば今日のところは大勝利。




 だから、できれば一刻も早く早瀬千聖がその場を立ち去ってくれるのを願っていた。関わった相手を必ず不幸に陥れるあの男がこの場から撤退することを―――きっと真理子さんも、由樹さんだって同じ気持ちのはずだ。早瀬千聖はさっきから同じ場所に立っている。桜坂の麓より少し手前に位置するそこは倒れた真理子さんが発見された場所だった。



――――――――――――――――   ――――――――  ―――― ――  



 腕時計は17:40を指していた。五分ちょっと早くしてあるから本当は35分にならないくらいか。何事も無いまま早くこの時間が過ぎて欲しかった。けれど反して願わない気持ちもあった。18:00なんて来ないでくれればいいのに。立ち止まるのも不自然だと思い足を止めることはしない。ああいうのは刺激してはならない。―――前に進まなければならないのだ。


 ほんの小さな短い横断歩道の前で真理子さんに目をやると、彼女も僕を見上げていた。視線から緊張が伝わってくる。きっと僕からも伝わってしまっただろう。だめだ、それではいけない。僕は何の為に此処にいるんだ。



「意表をついて、お金を返しにきたのかもしれません」

「ふぁーっ!“それは絶対無い”に5000点!」

「あーっ!それ何でしたっけ!?気になってたやつ」

「やだーごめん、見てなかった?クイズダービー」

「それだ!録画してます!」




 まだ再生したことは無いが、確か正解者を当てるクイズ番組じゃなかったっけ。応用するなんて真理子さんは本当に前衛的である。彼女のおかげでなんだか少し和んで、同時に意識がシャッキリとするのを感じる。


 左右から車が来ないことを確認して横断歩道を渡った。早瀬千聖は直線上に立っていて、あと10メートル先ですれ違うことになる。僕も真理子さんも無言になった。道幅は傘をさしていても横並びで歩ける程度。傘をさした人とすれ違うとした場合、縦一列になって歩くとしたら


―――――僕が前を歩くか、それでは隙ができる。真理子さんに前を歩かせれば何かあっても防げない。




「あ、由樹くんだ」



 真理子さんが手を振ると桜坂の向こうで由樹さんが手を振り返した。黒い傘をさして枯れ始まった樹木の木陰に立っている。スニーカーの足元には落ち葉が散らばっていた。


 進行方向に立つ早瀬千聖がほんの少し動揺したかに見えた。表情が見えたわけではない、そう思ったのは傘が揺れたからだ。彼女が手を振った方向が気になりつつも振り返っては不自然だとでも思っているような、あるいは動揺を勘づかれたくないというプライドが許さないのか、その仕草からはぎこちなさが窺える。あと5メートル。


 真理子さんがいることに早瀬千聖が気が付いていないわけがなかった。だって待ち伏せしているんだから。あの男は今、真理子さんを襲撃する計画のもと目の前で待ち構えている。早瀬千聖は僕を記憶しているだろうか。多分していない。


 僕は傘を閉じて、横並びのままガードレール側に真理子さんを押し出した。冷たい雨が首を濡らす。早瀬千聖とすれ違う1メートル手前で「真理子さん!」と由樹さんがまた呼びかけた。



「由樹くん!」



 彼女が同じ声の大きさで応えると早瀬千聖は由樹さんの方角を振り返りながら道の端に寄って、こっちに正面を向ける体勢になった。僕と真理子さんはそのまま由樹さんの方へ向かって歩き続ける。早瀬千聖の前を通り過ぎた。まるで鼓膜が脈打ってるかのようで、ストップモーションみたいに時間は流れる。


 通り過ぎる直前に僕は少し屈んだ。早瀬千聖のさす傘から垂れた水滴が髪を伝って顔に流れてくる。真理子さんには前を歩いてもらって、早瀬千聖との間に僕が入った。半径1メートルの狭い空間に緊張感が漲る。



 できるのか?僕に過去は変えられるのか?


 できなかったとしたら?


 歴史通りのことが起きてしまったら




「一緒じゃなかったんだね」

「ええ、少し調べたいことがあったものですから。下見も兼ねて」

「すぐに場所わかった?」

「ありがとうございました!おかげさまで、だいたいの場所は」




 少し距離があることと、雨音に負けまいと二人は叫ぶように会話する。坂道の最下点はT字路で、再び左右を確認して真理子さんが坂道の向こうへ渡ってゆく。その後ろ姿を僕は追った。歩く速度は少し落としていた。背後には早瀬千聖がいる。マユルくんから聞いた話では、この時間に此処を通った人はいなかった。












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 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面(クライマックス)で登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。



 ダサ1-climax








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