幸福な昼食
「何か食べたい物ありますか?」
銀行の窓口に座り、僕たちは小声で会話をした。オフライン特有の秘めた囁き。頭を寄せるとパネル越しに真理子さんから甘い匂いがする。なんかフルーティ。
「決まってないなら定食屋さんに行かない?この前話した焼き鳥屋さんがやってるランチなの」
“下見に”と、真理子さんが小さな声で言う。記入欄を指差したネイルが蛍光灯を反射した。
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真理子さんの今日の昼休憩は12時からだそうで、過ぎてしまっても休憩に出た時点から一時間休めるとのことだった。僕と由樹さんが銀行を出たのは11:30で島野さんの姿はもうない。売店は開いていて、ちょうどパンを詰んだコンテナを抱えた若い女性が出てくるところだった。
「あの方が由美子さんだと思います」
「―――はい!」
由樹さんの耳打ちに僕は頷く。三角巾から覗く黒い前髪は艶がある。顎が細くてシャープな印象を受けた。ふんわりとした真理子さんとはいい意味で逆のタイプに見える。遠目に一瞬見ただけだけれど、横顔がモード系のモデルみたいにかっこいい。憂いを秘めたような伏し目がcool!
「夏海さんガン見しすぎw」
「・・・はっ!」
僕たちは小谷さんに声をかけておくことにしていた。明後日の護衛の為には由美子さんとも知り合いになっておかなければならない。実行するのは明日までで間に合うとして、その旨を伝えておく必要がある。これから三日間はやることが多くて、考えると眩暈でもするかのようだ。
***** ***** ***** ***
同9月26日 月曜日
12時を過ぎて間もなく真理子さんが銀行から出てきた。今日は雨だからかお客さんが少なく、早めに出られたということだ。僕たちは正面玄関の隅っこで、人の邪魔にならないよう身を潜めていた。
「先に行って席を取っておけばよかったですね」
「うーん、たぶん大丈夫。一時まではそんなに混まないと思うよ」
傘をさして歩いたのは通ったことのない比較的大きな道で、お昼時だというのに外を歩いている人は少ない。恐らく多くの車通勤の人は傘を持たずに出勤してしまったのではないか。僕も会社員時代よくやらかした。
「この裏ってゆーか奥にあるの」
真理子さんが立ち止まって振り向いた先には横道があった。いかにも呑み屋街という感じがする。てゆーか横丁って感じ!大きな提灯がぶら下がった店の前で傘を閉じる。傘立ては無く、持って入るスタイルらしい。なるほどコンクリート打ちっぱなしだ。
長屋もいいが木造の一戸建てには何とも言えない味がある。二階もあるらしい。テーブルも椅子もどっしりと安定感のある木製で、天井近くの柱に括りつけられた扇風機は当たり前だが稼働していないようだった。コピーされたランチメニューは透明な下敷き(この当時流行っていたらしい)に挟まれている。焼き鳥屋さんという割にはハンバーグもとんかつも何でもあった。
「冬はおでんもあるよ」
「へえっ!」
俵ハンバーグはつくねでとんかつはランチでしか食べられないそうだ。真理子さんが教えてくれた。ランチメニューは曜日固定の日替わりがお得みたい。『金曜日はフライデー!』の文字に思わず吹き出しそうになる。確かに金曜日はフライデイだ。いい加減なことを言っているように見えるがあながち間違っていない。
「私、実は一人暮らしをしたいと考えていまして」
由樹さんが切り出した。僕も真理子さんも“うんうん”と頷く。店内は少し寒くて、僕ら三人の他にいるサラリーマンらしき人たちも上着を着たままでいる。時々戸が開く出入り口から雨の音が聞こえてきた。
「この住所はおわかりになりますか?単身者向けのアパートが建つ予定なんだそうです」
嘘ではない。「もうすぐ」とは言ってないと僕は無言で頷く。よし、決めた!鶏の塩焼き定食にしよう。メニューを回すと由樹さんは何秒もかからず鯖の塩焼きに決めた。真理子さんは既に決まっていたようで、メニューを渡すや否や「お願いしますっ!」と手を高く挙げて声を張る。負けるかとばかりに威勢のいい返事がカウンターの奥から幾つも返ってきて、僕はなんだかこの店をすごく好きになった。
「―――――あ、たぶん私この住所の近くに駐車場借りてる!案内するよ!!」
「わあ、助かります!」
ちなみに住所は令和で由樹さんが実際に住んでいる場所だ。今はどうなっているのだろう、と彼が軍議の途中で呟いたのを思い出す。
真理子さん本人に向かって「あなたは今日この時間に、早瀬千聖からの襲撃を受けて病院送りになります」なんて告知するわけにはいかなかった。注意喚起になるとしても恐怖を与えてしまうことになる。まかり間違って防げなかった場合には――――――いや、それは無い。絶対に防いでみせるけど。
「じゃあ今日の帰りとか大丈夫ですか?」
「うん、平気。月末だけどあんまり人も来てないから。雨だからねえ・・・今日は夜まで降るっていうし」
「そんな日に申し訳なくないですか?」
申し訳程度に僕も口を挟む。念のための確認です。ダメだったら後をつけるまでだ。
「ううん。雨は嫌いじゃないの」
乾燥する方が嫌なのだと言いながら真理子さんは髪を後ろで結ぶ。明らかに食べる準備だ。随分と気合が入っているな、と思ったが理由は数分後すぐに判明した。
「でっかい・・!」
目の前に置かれた鉄板で、焼ける音を立てながらジワジワ泡立つ皮付きの鶏肉はかなり大きかった。しかも二枚も載っている。これが650円?ナイフとフォークが付いていないと思ったら切り分けてくれてある。もしかしたらシェアも想定されている?切ってあるから冷めないように鉄板なのかな?興味は尽きない。
「あっ、ごめん。言ってなかったけど、このお店なんでも大盛りなの」
「わあ、すごい存在感!」
由樹さんもつぶらな瞳を輝かせた。やはり大きな鯖の切り身が二つ、長方形のお皿から両端をはみ出させている。真理子さんの生姜焼きも迫力のある山盛りだった。これだけの大きさで三人前ともなると、店員さん二人がかりで配膳に来てくれた。ご飯のお茶碗も大きい!
「あ、どんぶり飯は私です」
由樹さんが手をあげる。その盛りに真理子さんは「ひゃー、初めて見たー!」と目を丸くした。
「わあ、すごい。食べられる?」
「いただきます」
「無料でおかわりできますよ」と店員さんもニッコリした。
この幸せが――――――――――――――――
この湯気を囲む幸せな光景が、いつまでも続けばいいのにな。
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“あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の
ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。
ダサ1-climax
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