僕のやり方

 電話予約のおかげだろうか、銀行では番号札を受けてからそれほど待たずに呼んでもらえた。彼女の担当業務ということになってはいるが「お客さんほぼいないんだよね」「暇なの」とのことだった。そこに付け込む所存である。


 市役所の玄関には少し人が並んでいて、何かと思えば傘袋に手こずっている列だった。この時代には未だ「ガシャン!」では済まないようだった。おわかりいただけるだろうか。



「僕こっちの方が好きなんですよね」



 由樹さんが衝立のような物に傘を突っ込んでバサバサ音を立てている。見たことはあるが使ったことも、使っている人を見たこともなかった。そういえば雨の日に出ていたかもしれない。



「それ何ですか?」

「傘の水を切るんです。令和にもありましたよ」


「・・・へえ」



 令和にも。僕にはなんだか遠い話に聞こえた。




*****   *****   *****   ***





 我々が投資などしないであろうことを彼女は気付いているに決まっていた。何かの口実であると察しているに違いない。それでもにこやかに対応してくれるのはプロなのだと強く思わされる。何よりも彼女を不安にさせていなければいいが。そこが一番の心配事だった。



「今日はランチに出られそうですか?もしご都合がよろしければご招待したいんですが」



 由樹さんが書類に記入しながら小さな声で言った。営業スマイルだった真理子さんの表情が更に三段階は明るくなるのを、下を向いた由樹さんに見えていないことが残念だと思った。無理に距離を詰めるみたいに受け取られかねないのを懸念していたのは僕よりも由樹さんだった。それが彼女にとって恐怖へと直結することを。



「え、本当に?嬉しい!行こう行こう♪」



 雨だから気が滅入っちゃってねー、と彼女が頭を左右に揺らす。その様子は気が滅入っているようには全く見えなくて、ゆらゆら揺れて肩に触れる髪からはフレグランスのフローラルさが散漫されるのが目に映るように明るくて―――――。



(その笑顔を全力でお守りしてほしい。)



 マユルくんからの言葉が心に焼き付いている。守るからね、マユルくんにも真理子さんにも誓う。膝の上で拳を握りしめた。この笑顔を損ねてなるものか。




 *****   *****   *****   ***




 由樹さんには先週、マユルくんと話した翌日に—――これから真理子さんに起こる―――僕の知っていることを話した。マユルくんから聞いたままを全て。帰宅した日の夜だった。


 そのことについて後々もしも未来からダメ出しがあれば口止めするまでだ。けれど由樹さんは信用に足る人物だと僕の心は決まっている。その読みが外れていたら単に僕の落ち度に過ぎない。ペナルティがあれば受けるつもりでいる。真理子さんを被害になんて遭わせないこと、今はそれが第一だ。




「目撃者になれば良いということですね」



 僕の話を聞いた後でそう呟いた由樹さんは、眉尻も目尻もキリっと吊り上がっていた。つぶらな瞳に湛える炎は見たことが無い冷たさで、湛えた怒りに僕は圧倒された。要するに、ぶっちゃけ超怖かった。



「――――――はい」

 


 珍しく冷静さを失っているのかもしれない。それは怒りの余りか、動揺からなのか。僕は彼の言葉を否定しなかったものの、正確には目撃する前に阻止しなければならないと思っていた。見ているだけなんて状況を受け入れている場合ではなかったが、僕がわざわざ説明なんかしなくても彼は“すべきこと”を解っているのだと信じている。今は感情が揺れているに過ぎないのだ。

 


「―――――でも事態が起こる前に何とかしなければ、ですね」




 由樹さんの言葉に僕はホッとして大きく首を振る。もちろん縦に。

 

 早瀬千聖を捕まえることが目的ではない。そんなことの為に真理子さんをおとりに使うつもりなど僕には無かった。きっと由樹さんにも。




「夏海さん、話してくれてありがとうございます」



 そう言った時には彼の瞳にいつもの冷静さと穏やかさが戻っていた。僕は泣きそうになってしまう。なってしまって、自分も由樹さんと同じように顔が強張ってしまっていたことに気が付いた。これから起こる悍ましい出来事を言葉に出すことに対して神経を張り詰めていたのだと思う。だからか声も上ずった。



「え、そんなのやめてよ」



 由樹さんの気遣いは普段から申し訳ないほどだ。僕が>1だと知っているのにも関わらず踏み込んでこないことにも感謝していた。はぐらかすのは多分、僕は得意ではないから。それに居候という立場を考えて遠慮させているとしたら余計に心苦しい。でも実際に、まだ話せていないことが多い。


 自分は卑怯だと思っている。手の内も明かさないで協力して欲しいだなんて、しかも囲うような真似をして弱味を握っているみたいじゃないか。




「由樹さんは僕のブレーンです。うちの軍師なんです、協力してもらわないと僕は何もできません」



 彼の目を見ることはできなかったが、なんとか絞り出した言葉は本当の気持ちだった。だけど僕は由樹さんに隠していることがあって、それが今とても後ろめたい。きっと僕のやり方は汚い。先週マユルくんから聞いた後もう一度通信があったことも、その内容も僕は由樹さんには伝えていなかった。
















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 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面(クライマックス)で登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。



 ダサ1-climax









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