長い一日

(そういうことなんだよ。)


(大瀧さんは命までは取られないから、そこは安心してくれ。でも防がなければ恐ろしい想いをすることになる。)




 サ ツ ジ ン ミ ス イ の 被 害 者 


 コ ウ サ ツ を 試 み た か


 首 に シ メ ら れ た 痕

 




 どれも聞いただけで恐ろしい言葉だ。


 命は取り留めた為か個人名が公になることはなかったが、長期入院に伴い社会からは退場することになる。事件はすぐに世間から忘れられた。それは幸せなことなのか、そうでないのか。マユルくんの口調は重く感じられた。




 犯 人 は 逃 走



「―――――そんなことさせるかよ」



 思わず声に出していた。震えているのは怒りのせいだ。そんなこと絶対にさせるものか。知った以上は必ず回避してみせる。その為にマユルくんだって知らせてくれたのだから。僕の手が届く範囲になったからには!




(指一本触れさせねえからな。)

(そうだ。―――――その意気だぞナッツ。大瀧さんはナッツと出会ったことで幸運にも被害を回避できる可能性ができた。)



(歴史は変わったんだ。)


(—――うん。)




 恐らく由樹さんが過去へ来たことで、ということになるのだろうと僕は考える。―――――でもマユルくんは由樹さんの存在を知らなかった。


 由樹さんに会わなければ僕は多分、あの日Avantiへは行かなかった。きっと売店で買うか安そうな怪しい喫茶店にでも一人で入って昼食を済ませていただろう。怪しい喫茶店ほんと好き。しかも県外で探せるだなんて心躍るじゃん。


 それはさておきマユルくんは僕と真理子さんが出会ったことは知っている。由樹さんの存在はどういう扱いなのだろう。扱いって?誰の?って気もするけど。早送りにも関係しているのだろうか。


 しかし今ここで話し合っていても解明できそうにない話だ。


 早瀬千聖は真理子さんが一人になる時を狙って奇襲をかけたのだと思われる。それはいつなのか。何月何日。通勤途中か、今日みたいに飲みに出かけた帰りか。いずれにしても一人になった時と考えて間違いないだろう。

 

 僕は背筋を伸ばした。ぬるくなった緑茶を飲み干す。マユルくんにもそんな動きがあったように感じられた。



(早瀬千聖って名前は記憶にあるな?)

(―――――ある。)



 覚えておくようにとマユルくんからも言われていた。言われてみれば、まだ真理子さんを危機に陥れる犯人については説明が無かったのに早瀬千聖の仕業だと思い込んでいる。



(フッフフ。察しのいいことだな。)



 またしても先入観だ。よくない、よくないぞ。寺谷くんを忘れるな。寺谷くんはいい子なんだから。フッフフ。



(早瀬千聖って、他の依頼でも聞いたことのある名前だったんだ。)

(ナッツ。そのことなんだけどさ、今度ちゃんと話すよ。)

(何か知ってるんだね。)


(ああ。とにかく今は彼女を守ることに照準を絞ろう。早瀬が大瀧さんに危害を加えるのを防ぐんだ。)



 ノイズの間隔が短くなってきていた。僕は「御意!」と応える。声が大きかったかもしれない。ごめんなさい。



(これから日時を言う。メモはできるか?)

(できる。あ、由樹さん・・・同居人には協力してもらっていいよね?僕一人では怖いもん。)

(フ、いいと思うよ。確認はこれから取るけど、不安なら上手いことごまかして一緒に連れて行けばいい。)

(わかった、ありがとう。それなら問題な)

(っ、ナッ ―—―    ――― ――――――――――――――   )



「マユルくん・・・?」




 そのまま通信は途切れてしまった。恐らくはマユルくんの方で集中力が一気に削がれるような、何某かの事態が発生したのだ。彼は危険そうな場所には出向かないだろうから無事だとは思うが。もしかしたらリヒトさんの病室にいるのかもしれない。あそこなら静かで集中できる気がする。リヒトさんが起きる時間だというようなことも言っていたし。




*****   *****   *****   ***




 由樹さんはうちの軍師なんだ。マユルくんにそう伝えておきたかった。真理子さんとだって面識がある。ううん、そもそも協力してもらうなんていうのが烏滸がましいんだ。真理子さんとの縁を繋いでくれたのは由樹さんで、この件は彼に主導権を渡してあるんだから。その全てが僕の一存に過ぎないのだけれど。真理子さんに起こることを阻止するのはPhloxの指示なのだろうか。それともマユルくんの親切心なのだろうか。


 思いも寄らない疲労感がドカンと僕を襲ってくる。頭と両肩を押さえつけられたような重圧を感じて一瞬だけカクンと首を擡げた。意識が何処か別の空間へ連れて行かれるような感覚があって、今の行為は僕にとっても甚大なる集中力が必要らしいとわかった。次回からは温存しておこう、色々と。


 ああ、そうだ。由樹さんが令和(そっち)に戻れるのはいつになるのか、調べてもらえるように頼めばよかったな。次回確認しよう。戻るまでの保険証とかを作れたりしないだろうか。また力業で。


 目が覚めても、僕がこのことを忘れていませんように。


 次回がくる前に由樹さんは令和へ戻っているかもしれない。けれど、そうだとしても僕が忘れてしまいませんように。彼の役に立ちたいと考えたことを憶えていられますように。


 一瞬だけ目を瞑るつもりだったのに、僕の魂は沖へ流されたようだ。完全に現世から引き離されてしまっていた。一言でいえば寝落ちなんだけどね。長い一日だったな。














🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼🐼




 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面(クライマックス)で登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。



 ダサ1-climax








  

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