未来から通信

23:40 由美子さんの事故まで一週間と一日



 音を小さくしたカラーテレビをつけっぱなしにしていた。リモコンが何処を探しても見当たらず、その理由に気が付いて手動でボタンを押して音量を下げた。昔は大変だったんだな。なんとなくニュース番組にチャンネルを合わせたが、言語としては拾えないくらいの微かな音が耳元を通過してゆくだけだった。僕は一度に複数のことを進めるのが苦手だからちょうどいい。画面が賑わっている程度には気が散ることもなく、安心感が得られる気がした。


 マユルくんからの通信を取り逃がさないよう気を付けながら僕の話したいことを整理していた。時計も気にしつつルーズリーフに箇条書きで記入する。先述の通り混乱しそうだったが、書いておかないと懐かしさに引っ張られてどうでもいいお喋りをしてしまいそうだから。どのくらいの時間話せるのかわからない以上は無駄話なんてできない。それにまだ二ヶ月も経っていないのに。


 正座は苦手だから窓際に置かれたテーブルと椅子を使っている。どちらも木製だった。編まれた木にニスを塗ってある。旅館という雰囲気を醸し出すのを手伝っているように感じた。これが無ければ和室なだけでビジネスホテルみたいだ。


 障子は一度開け放したがすぐに閉めた。狭い庭が見えるだけだった。玉砂利ですらないただの庭。それに酷く冷えたのだ。といっても暖房をつけるほど寒くもない寒さだった。大きく分けると夏と冬しか無い令和に慣れた身体では風邪をひきかねないと思った。


 売店でカップラーメンは買って来てある。念の為だ。でも「ある」って知ってると気になって食べたくなっちゃうんだもん。お腹が空いているわけでもないのに気になって仕方がなくなる。いけない、集中するのだ夏海。


 昨日から今日にかけて飲み過ぎたせいか、眠気もあったが船を漕ぐわけにはいかない。温泉にも入らなくては!相談したい事項を思いつく限り書き出すと僕はスマホを手に取った。バッテリー問題は—――――スマホが出始めるまでには今から20年近くかかる為—――――心許ないが、こっちへ来る直前に真新しい端末を購入してきた。


 眠気覚ましにミュージックアプリを立ち上げラジオ体操を開始する。深夜だから音は絞った。


 



 ******************





 ラジオ体操第二の軽快なイントロが始まった時だ。脳内でノイズが聞こえた。



(ラジオ体操か。)



 頭の中でマユルくんが「ふふっ」と笑う。



(懐かしいな。)

(マユルくん。)



 年季の入った柱時計は振り子式で、23:55を針が指している。



(予定通り話せそうだな。あと五分したら話しかけるよ。)

(うん。)

(準備体操をしっかりしておけ。フッフフ)



 そんなに激しい内容になるのかと不安を覚えたが、マユルくんに言われた通り僕はしっかり体操した。それが済むと息を切らして、さっき急須で淹れておいた緑茶を飲み干す。現代(しょうわ)では飲料水の500mlペットボトルでの販売はされていない。500mlペットボトル自体を見かけないのだ。


 ミネラルウォーターが珍しくて、というか僕は未だ見かけたことが無いのだけれど。水なんてなかなか売ってない。個人宅で水道水の浄化なんてセレブ層の話だろう。かなり意識が高くなければ、きっと手を伸ばさない存在だ。よって、この時代では白湯が最強だったのだと思われる。カルキは抜けるし、だが時代が変わっても僕の口には合いそうもない。


 気を抜くと瞼が重くなった。布団に寝転がりたい気分だったけれど、眠ってしまわないようにまた窓際の椅子に座る。マユルくんと話せるのが楽しみだった。眠ってしまったら夢の中ででも話せないものだろうか。



(それならトラオが専門だな。)



 ・・・トラオさん。猛々しい名前からはかけ離れた穏かな風貌が浮かんだ。山奥で待ち合わせをした相手だ。あの時も市役所だった。支所っていうんだっけ。まだ違いがよくわからない。



(――――ハリネズミを飼っていた人だね。)

(そうそう。猫も飼ってるっていうから捕食しないか心配なんだ。)

(僕も思ったよ。)



 マユルくんの「フッフフ」と笑う声がまた聞こえる。通信が始まったようだ。



(電話が通じたんだってな。実はリヒトが起き上がれるようになったんだ。)

(本当に!?)

(ああ。)

(—―――よかった。)



 マユルくんに伝わっていないとしても心からそう思う。本当によかった。



(うん、ありがとう。まだあんまり長い時間は起きていられないんだけどさ。)

(うん。)



 鳥海社長からの電話は僕が教習所へ通い始める頃だっただろうか。あれから未来からの電話は無い。実験的なものだったのだとマユルくんは言う。リヒトさんは未だ全回復ではなく入院はしているままだし、時空を超えて電話回線を繋ぐような労力は負担が大きいそうだった。


 それはそうだろう。彼らのお母さんはどうなのだろうかとも気になった。心配ではあったが尋ねにくい。―――――マユルくんの方から報告してくれるのを待てばいい。僕にはいくらでも時間がある。




(俺もまだこれ使いこなせてないんだ。)

(うん。)

(時間軸はそんなに関係なさそうな気がするんだよな。)

(うん。)

(ナッツとは面識あるし。)



 少し何かを言い淀んだのを感じた。通信時間は大丈夫だろうか。マユルくんの咳払いが聞こえる。時折ノイズが入って、その度に途切れる。



(ナッツ?)

(うん、聞こえてる。)

(―――ナッツ、いいか?俺は、ちゃんとオッサンになったナッツともこっちで会いたいんだ。また千明さんと三人でふざけたいと思っている。)



 途切れ途切れのマユルくんの言葉が何を意味しているのかを、僕は酔っ払っていなくてもすぐには解らなかったと思う。


 オッサンになった僕とは会えていないということだろうか。会えていたら受信するのはそっちの僕なのだろうか。確かにその方が簡単だろう。時空を越える手間が無い。はっきり言って会って話せば済む話だ。


 オッサンになった僕は年齢の差を気にして二人を拒絶しているのだと、一つの可能性として考えられた。仕方ないよね。それは過去へ来る前から考えていたことだもの。



















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 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面(クライマックス)で登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。



 ダサ1-climax
















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