誓い 宴の終わりに
22:30
ラストオーダーでウーロン茶と、デザートにレモンシャーベットを各3つ注文した。
「ところで真理子さんは、お帰りの際はタクシーを呼びますか?」
通勤用の車を置いて帰るとは合流の際に聞いていた。僕たちは由樹さんの希望で駅裏から少しだけ歩いた場所に旅館を押さえてある。今日真理子軍師に会うことは、その時点から想定していたのかもしれない。
タクシーで帰るのならば一緒に、と彼は提案した。それには僕も賛成だった。遠回りに何の問題がある。由樹さんたらスマートな誘い方をするじゃん。
「ううん、ありがとう。歩いて帰れる距離なの。ただ、後をつけられたことがあったから車で来てるだけで今は大丈夫」
今サラッとすごいことを言った気がするんだけど。
「―――――それは東吉郎に?ですか?」
「違うお客さん。まだ若かった頃で別の支店にいた時にだよ。職場の近くで一人暮らししててさ、警察に相談しても民事不介入って言われてしまいまして、ですね」
真理子さんは「ハァッ」と溜息を吐く。眉毛の両端が下がって親しみやすい優しい顔が強調されるようだったが、今は困り顔に見えてしまう。
別の支店に勤務していた頃に窓口で対応した男は、ある日の夕方アパートの前で彼女を待ち構えていた。知らないふりをして無視したものの、度々同じことが起こった。寒い雨の夜にはアパートの階段で憐れを誘うかのように座り込んだりと、その独り善がりのロマンチシズムで彼女を心の底から気持ち悪がらせた。
嫌なことを思い出させてしまって申し訳ないことをした。だから口に出しては言わないが、早瀬千聖も同じタイプの予感がする。雨の降る中で想い人をひたすら待つ自分に酔いしれているかのような。でも同情を引こうとしているのが本当の狙いだ。あわよくば部屋に入れてもらう、その先を期待しているのが見え見えで気持ち悪い。
一人暮らしは楽しかったが、真理子さんはそのことがあってすぐに実家への引っ越しを決めたそうだ。誰にでも愛想よくするのも控えるようになった。「思わせぶりな態度を取るからだ」「自分が悪い」と言ってくる人間もいた為だ。相談してもいないのに耳に挟んだ程度の間柄の奴に限ってそういうことをいう。
「真理子さんは何も悪くないのに!」
「ちょ、夏海くんサイコー!今日ほんと楽しい」
「え、そうですかあ。僕も楽しいです」
「そうだよ!だから話を戻すけどね?君たちが今調べてる、売店の子に付き纏っている奴は絶対に突き止めて!!絶対やめさせよう!」
「―――――はい!真理子さん!」
もう誰にもこんな思いをさせてはいけないのだという意思が伝わってくる。そういう女性なのだと、夕方からの宴を共にして僕は彼女の男前な清々しさを十分に理解した。僕がしたんだから由樹さんだってそうだろう。頭いいもん。
「だから私にもできることがあったら、また話してね!」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!!」
なんかちょっと泣きそうになってしまう。真理子さんに幸あれ!と思わずにはいられなかった。
***** ***** ***** ***
計4枚も頼んだピザは「試作品だから」と店側が無料でと申し出てきた。そんなわけにはいかない、支払うと言い張ったが先方も引かず僕たちは敗退した。
「あんなに美味しい物を食べてお金を払わないなんて、一体どうして、何の為に働いているのか意味がわからなくなります」
由樹さんが困惑したように呟いた意味がよく解る。僕は学も教養もないけれど社会人として。真理子さんも深く頷いたから正しいのだと思う。早瀬千聖には理解できないかもしれない、という思いが胸を過る。僕たちはごちそうさまでしたとお互いに頭を下げ合って席を立つことにした。楽しかった。
「では、ご自宅まで歩いて送りましょう」
「そうしましょう、そうしましょう♪」
「え、いいの?」
帰りは彼女の自宅前まで送って行くこと決めていた。店に入る前に「その方がいいですよね?」と話し合った程度であったが、今ここに至って暗黙の了解で決定となった。やっと吐き出すことができたとのだと真理子さんから御礼を述べられて少し気恥ずかしい気持ちになる。御礼なんて言われるようなことでもないけれど、感謝されれば嬉しい。酔いが醒めつつある由樹さんもそんな感じに見えた。
ホール担当の女性に出入り口のドアまで見送られて店を出た。階段を下りると真理子さんが頭を下げる。
「では申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
「こちらこそですぞ」
「日本男児として当然ですぞ」
「あはは!日傘は持って歩いてるんだけどね」
護身術は大切だ。こんなに気を付けて生きている人に対してとやかく持論を発信してくる人間がいることに腹が立つ。
***** ***** ***** ***
帰り道は繁華街を出てしまえば街灯が少なかった。真っ暗に近い。真理子さんに許可を得て僕らは煙草に火を点けた。携帯灰皿は必ず持っている。本当は歩き煙草する人間が大嫌いなんだよね。いつもなら自分でも絶対にしない。「私もです」と由樹さんが言った。しかも彼は、現行犯を見かけたら追い越す時に「しね」等と呪いの言葉を浴びせるらしい。恐ろしい子。
「狐や狸は煙嫌いって言いますし」
「ガラ悪く見えた方が防犯になると思いますし」
「よきにはからうがいい!」
「ははぁっ!姫!」
「御意に!」
楽しかった。笑いながら、でも大声を出さないように徒歩5分も過ぎると“大瀧”と表札のある邸宅へ辿り着いた。もうお別れだ。オレンジ色の屋根がオシャレ。駅から近いしお家もかなり大きいし、庭も広そう。二世帯住宅で隣にはお兄さん夫婦が住んでいるらしい。門の向こうで大きな黒い犬が尻尾をゆらゆらさせながら出迎えてくれた。吠えなくてお利口そうだ。
「知らない人が来ると吠えるよ。知ってても怪しかったら吠えるし」
「ねえ?」と犬の頭を撫でながら真理子さんが小さな声で言う。なんてお利口さんなんだ!門を開けると尻尾を立てたまま近寄ってきた。かわいい。
「モフッ・・撫でてもいいですか?」
「どうぞ。この子、松方っていうの」
ネーミングセンスが些か高すぎやしないか。でも強そうでかっこいい。
門の前でお座りした艶々の背中を撫でると、松方は目を細めて僕の肩に顔を擦り寄せてくる。いい匂いがして温かい。大事にされているのが伝わってきてなんだか嬉しかった。
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“あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の
ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。
ダサ1-climax
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