自分の価値

「違うから安心してください夏海さん」

「そうだよ、夏海くんは大丈夫w」

「・・・ありがとうございます」



 二人は否定してくれたが本当にそうだろうか。酔っ払っているのもあって自分を信用できなかった。これが劣等感というものだ。僕はいつだって自分を疑っている。自分では気を付けていてもおかしなところがあるのではないかと。怪物たちの話を聞いた後だから余計にだった。



「早瀬くんがギャンブルやってるのは確実だと思う」



 こんなに勝ったことがある、と自慢してきたという真理子んさんの話からも間違いなくはいるだろう。




「お金持ってますっていうアピールは、借金を申し込みたい人あるあるだったりするそうですよ」

「うっわあ、あるある」



 あるんだ?

 え、やっぱり教養ってこういう



「心配しなくていいって!ファー」

「大丈夫ですよ夏海さん!」



 いけない、ごめんなさい。酔っ払って絡むなんて不覚を取ったものだ。気を引き締めねば。



「実家がお金持ちだからすぐに返してやるとか自分には博才があるとか、千円も返せないのにすごく偉そうに言ってたよ」



 さっきまでお母さんが女手ひとつで苦労して育ててくれてなかったっけ。お姉さんと妹が何人もいたり一人っ子だったりと設定にブレがありすぎて、真理子さんには申し訳ないが面白い。


 二回しか会っていないのにどれだけの嘘を吐いたのか、しかも昼休憩の各一時間以内の間だ。僕はいつのまにか早瀬千聖に対して興味が湧いていた。彼女との二時間に詰め込まれたエピソードが由樹さんの言っていたような、人に聞かせるために練られた渾身の虚言うそなのだというなら聞いてみたいじゃないか。


 更にその日に至っては会計間際になって「お財布を盗まれた」「さっきまであったのに」という演技を始めた。


 演技って。居合わせてみたかったものだ。きっと笑いを堪えられない。



「期待を裏切りませんね」

「ちょっとぉ、夏海くん」

「あるいは、計画的だったんでしょうか。朝のうちに誘っておいて昼までに財布を盗まれたことにする」



 なるほど――――――僕と当事者である真理子さんは由樹さんの言葉に顔を見合わせた。


 あるかもしれない、さすがはシャーロック。だがそうであれば早瀬千聖もなかなかの策士ということになる。真理子さんも「うんうん」と頷く。しかし僕たちは、パチンコで溶かした説もやっぱり拭いきれないでいた。お昼には失われているが―――――これは一旦、仮定とする―――――、施設の職員さんによれば給料は前日に間違いなく現金で支給されたという。



「やたら機嫌悪かったからね」

「待たされることに我慢がならないのであれば、一時間も待っていないで立ち去ればいいことです」



 そうまでして―――――もちろん無銭飲食が目的の一つではあったのだと思う。



「朝誘われた時にね、私もこれはチャンスだと思って。立て替えた分なんて返してくれなくていいからって言ったんだ」




 よほど鈍い人間でなければそれがどういう意味かは解るはずだ。真理子さんは断ったのだ。それでも、どうしても彼女を繋ぎ止めておきたい下心があったのだろう。


 まず偏見ではあるが、連れて歩く為に見栄えが良い女性と親しくなりたい男はいるのだと思う。バブルこの時代には余計にそういう風潮がある気がした。あくまで偏見ではあるが。


 その前に自分の服装を考え直せよ、と早瀬千聖に関しては思わずにいられなかった。センスの問題以前に美醜を見分けられないほど世間とのズレがある可能性を疑いたくなる。僕は疑い深いな。さておき、そんなに自分が可愛ければ人の目なんか引かない方が幸せだ。目立たなければ少なくとも恥をかかないで済む。


 それは横に置いておいて。もしくは彼女の内面の良さに気が付いた、人を見る目はある場合。ノリの良さと気取らなさが好ましい、話していて楽しい。あとは先ほど、彼女が思い出しただけで席を立つほどに気分を悪くした「一緒に住みたい」という発言だ。ほんとに気持ち悪い。どうしてそんな風に簡単に自分が受け入れられると思えるのだろう。そのポジティブさが僕には理解できなかった。


 何にしても高嶺の花に積極的に言い寄るなんて正気の沙汰じゃない。異性から親切に接してもらった免疫が無くて「自分のことを好きなんじゃないか」と思い込んだか、持ち前の変な自信を以て勘違いしているか。どっちみち自分の価値を見誤っている。


 その点で石田先生の神経は真面だったと僕には好感が持てたのだ。卑屈との紙一重を行き交うような危うさはあったけれども、根拠の無い自信を持った者より人としては真っ当に思えた。その点ではね。劣等感シンパシーもあるかもしれない。

  



「お付き合いするつもりは一切ありませんって解ってもらわないとならなかったから」



 だから公衆の面前で全否定した、それは結果的に功を奏したと言えるだろう。真理子さんに肯定的な証人が僕と由樹さんの他にもできたと思われる。何をしでかすか解らない獰猛な男から一方的に言い寄られ、突き放すのに伴うリスクを考えたら恐ろしかったことだろう。あの大立ち回りはやはり真理子さんの勇気と決死の覚悟だったのだ。



「称賛します」

「します」

「あはは、ありがとう」



 早瀬千聖を近くに寄せ付けないという目的は達成できた。でもそれはあくまで人目がある場合の話で、早瀬千聖が真理子さんを諦めたとは言い切れない。諦めて矛先が由美子さんに向かっていると考えると、それもマズい。


 それと嘘がバレたという―――――口止めの目的が新たにできた可能性も否めない。油断はできなかった。それは真理子さんも懸念しているようだった。妄想の中で生きる、現実を見ようとしない怪物が相手だ。


 普通に考えたら合わせる顔なんて無いと思うんだけどね。普通の神経ではないようだから、如何せん。

















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 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面クライマックスで登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。



 ダサ1-climax

















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