いずれ哀しきギャンブラーたち

 入ったばかりの給料を元手にギャンブルで増やそうとした?それに失敗して銀行へ借りに来た?早瀬千聖の行動をと、さっきマユルくんからも言われていた。


 いくつか意見は出たものの想像の域を出ることはなかった。が、切羽詰まっていることだけは間違いなさそうである。真理子さんも言っていたけど困ってるならレストランになんか行こうとしなければ良いのに。コンビニおにぎり安いじゃん。


 

「清々しい気分よ、とても」



 清々しいと真理子さんは繰り返した。今日は本当に楽しいと目尻を下げて、彼女は窄めた唇から息をフゥッと吹き出す。どれほど鬱憤が溜まっていたことか。



「直接話したらつまんないしムカつくんでしょうけど、客観的に聞くと大変面白い話です、笑えるという意味でも興味深いという意味でも」

「本当にそうです!ネタとしては申し分ありませんよ真理子さん」



 由樹さんも僕も真理子さんを元気付けたかったのだと思う。でも面白いのは本当だ。滅多切りの悪口は聞いている方も清々しい。どんどん発信していくべきだ。といってもこの時代には、その手段は残念ながらあんまり無い。



「だって、こうやって聞いてくれる人いないんだもん。一緒になって言ってくれる人なんて」



―――――そういうものなのかもしれない。話を聞いて欲しかっただけなのに否定してくるだけでは留まらず、ドヤ顔で上から偉そうに「おまえも悪い」なんて言う人間も存在することを僕は知っている。


 広い範囲に目を向けて、それこそ発信でもすれば共感してくれる人は寄ってくる、場合もある。それは確率で公約数で、この時代では難しい。社会に出るとそういう相手を見つける確率って意外と低いものだ。僕にとっても他人事ではなかった。


 それに真理子さんのような可愛らしく愛想もいい女性をよく思わない同性が一定数いるのだとも想像するに難くなかった。こんなに楽しい人と話しもしてみないで嫌いになるなんて勿体ない。・・・由美子さんはどうだろうか。敵の敵は味方理論が通用するかもしれない。二人が仲良くなれればいいな、と余計なお世話だけど僕は期待してしまう。



 


 *****   *****   *****   ***




 早瀬千聖が二度目に真理子さんを誘ってきたのは一度目の食事から一週間ほど経ってからで、今度は朝の出勤時を狙って待ち伏せされていた。八月末の火曜日だ。



「先日の御礼に、お昼ご飯に行かないか」とのことだった。ああああああ、もうキナ臭い!



「その場でお金渡してくれるだけで良くないですか!?」

「わかってんね、ワトソンくん」



 真理子さんはその日お昼当番で、持ち場を離れられたのは十三時になってからだった。前回はどうせ一食恵んでやるだけのつもりだったから、返してもらわなくても構わないと彼女は考えていた。



「お昼を一時間以上も過ぎてたから、もう待ってないかなってゆーか。待ってないといいなって思ったくらいなのよ」


 

 ところが早瀬千聖は鬼の形相で銀行の前に立っていたという。怖すぎる。「一時間も待たされた」と文句まで言い出した。よっぽどお腹が空いていたんだろう。



「責任を転嫁する癖もあるように思えます」



 シャーロックの言葉に真理子さんも「でしょ!?」と声を上げる。確かに先程、虚言壁の特徴として自分の正当性を主張してくると確かに挙げていた。



「先に言えって言われてもさ、当日に仕事が始まってからじゃないと当番なんか決めらんないし」

「真理子さんは何ひとつ悪くないです」

「てゆーか、なんでそんなに偉そうなんですかね?」



 僕は素朴な疑問を口に出してみた。押しかけてきた上に、ありえない。



「普通お金を借りていたら下手に出るものではないでしょうか?・・・立場を弁えるというか」



 そもそも普通は人からお金なんてそうそう借りないとも思ったのですが。どうでしょうか、僕の想像でしかないけれど。それにはシャーロックが応えてくれた。



「一度は感謝しても次第に要求してくる人間というものはいるものです」

「あ、すごくわかる」



 わかりみが深い、とは真理子さんは言わない。当然だ。言ったらビックリするよ。でも彼女が続けた言葉に僕はビックリした。



「あと、貸したら借りた方が立場が上になる、みたいなこともあるみたい」


「え、返してほしければってことですか?そんなバカな」

「―――あるんですよ、夏海さん」



 真理子さんもハーブティー割のグラスに口をつけたまま顎を引く。由樹さんは眼鏡を外して息を吹きかけた。レンズをハンカチで拭うと再び眼鏡を装着する。



「奨学金を“そのうちポーンと返す”と言っていた同級生がいました」



 一浪していて年齢的には一歳年上の同級生で、必修の講義や生協で顔を合わせれば話す程度の間柄であった。人当たりもよく印象も悪くなかった。ある時は彼が、高級ブランドの黒い革製バッグを買ったのだと見せてきた。「就活の時は貸してやる」「その時は声をかけろ」と言われたりしたこともあり、由樹さんも同級生達も彼を親切な兄貴分だと思っていたようだ。でも由樹さんは高校を卒業して間もない十九歳で、就活は三年後だ。現実味の帯びない遠い話だった。



「彼はギャンブラーでした」



 最初は帰りの電車賃や自販機の小銭を貸す程度だった。そのうち「コンビニに行くなら自分にも買って来てほしい」と言い出したことで違和感を持つようになる。



「元々それほど親しくもない相手でしたので私はその時点で距離を取ったのですが、他の友人たちの中には数千円貸したとか、もっと大きな金額を貸したということがあったそうです」



 彼が奨学金のほとんどをギャンブルに費やしているのは周知の事実であった。勝てば得意になって人に話して回るから有名だった。由樹さんの耳にもその話は入っていたので深入りしないように用心していたらしい。


 二年生になる頃、ふと気が付けば彼を校内で見かけることはなくなっていた。僕はそれを聞いて絶句した。由樹さんの母校は超優秀な国立大学だ。真理子さんは「いるよねー」という感じで頷いている。




 いるんだ?


 

 え、僕もしかして世間知らず?教養ってこういうこと?



















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 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面クライマックスで登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。



 ダサ1-climax













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