嘘つきグランプリ

「本当は保父さんになりたいけど、母親の面倒を見る為に家でできる仕事じゃないといけないから弁護士になるんだって」



 志だけは立派じゃないか、と僕が感心していると隣で由樹さんが盛大に吹き出した。



「・・・失礼しました。どうして弁護士が在宅勤務だと思ってるんでしょうね」

「わかんない」



 彼はよく笑うけれど、こんなに勢いよく笑ったのを見たのは今のが初めてだった。いい傾向だ。



「しかも、仕方なく、みたいな・・言い方を、する」



 由樹さんは細い肩を震わせながら振り絞るように言った。笑い上戸ってこういうことなのだろうか。



「でも本当にそんな感じで話してたよ」

「その人、年は幾つなんですか?」

「22歳って言ってるけど嘘だと思う」

「あ、ダウトって感じですね」



 もっと老けて見えたが今更年齢を偽ったくらいでは驚かない。メンズノンノの公開オーディションで最終審査まで残ったなどと言い出した時には、店内にいた誰しもが早瀬千聖の姿を一目見ようと振り返ったそうだ。一体自分の何にそれほどの自信を持っているのだろう。



「クラスの女子が勝手に応募したから嫌で辞退したんだって」


 

 それを聞いて僕と由樹さんはしばらく笑いが止まらなくなり、我に返った時には虚しくなるほど呆れていた。


 次から次からありえない話が飛び出してくる。二人はその度に、ファーッ!と声を合わせて笑った。ワンテンポ遅れることが多いけれど僕も勿論笑う。楽しかった。




*****   *****   *****   ***




「バンド活動とかはしてないんですかね?」

「ファーッ!質問したら“そういえばやってた”って言いそうじゃない?」

「“よく考えたら”やってるんでしょうね。パートはボーカル兼ベースでしょう」

「ライブハウスでスカウトされたことがありそう」

「凄い有名人からオファーされたけど断ってますよ」




 真理子さんは「ちょっとwタイム」と言ったきり震え出す。テーブルに突っ伏してプルプルと振動していたが、少しして落ち着いたのか起き上がり下がった目尻を拭った。由樹さんが彼女のお冷グラスに無言で水を注いでいる。



 酔っ払いの僕ら三人は、所謂内輪ウケというやつを狙った話で盛り上がっていた。お互いを笑わせたいが為に考えたを吐く、要は単なるネタである。それすらを凌駕するほど、早瀬千聖本人の嘘は凡人の想像なんて簡単に絶するものだった。


 というより凡人ならば「想像してみる」ことはあっても口に出したりできないようなことばかりだ。あの時こんな風だったら、こうしていれば、もしも自分だったら・・・なんて域も遥かに逸している。


 自分が紡いだファンタジー作品として、受け取ってくれる誰かがいるのであれば創作という前提で発表することはあるかもしれない。そうではなく、起こりようのないドラマチックすぎる設定と現実的には余りにも無数のエピソードをよもや自分の経験として人に向かって表現し続ける勇気だけは称賛したい。


 なんでできないかって恥ずかしすぎるもの。無理無理。僕には絶対に無理。



 それらの嘘の・・否、発言の一方で「小学生の団体が騒いでいても自分が不機嫌そうな顔をすれば忽ち静かになる」とドヤ顔(とは言ってない)をしてみたり、いかにも怖そうな大きな犬を蹴り飛ばしたことを楽しそうに、武勇伝のように語ったり。それらも嘘であってほしいものだが。



「親友の彼女が何かの試合当日に亡くなったとか言っててね。生死のことで嘘を吐くことが気持ち悪くて許せなかったの」



 真理子さんの表情から軽蔑の意思が伝わってきた。それは人としてあってはならないことだ。縁起でもない言葉をよく口に出して言えるものだと嫌悪感が湧いてくる。きっと平気で身内の不幸をでっち上げ会社を休むタイプなのだろう。



「親友の名前一定しないし、その彼女が私と同じ名前だったとか言うし」

「うわ、ありえね」



 最悪。僕は声に出してしまった。由樹さんのつぶらな瞳にも怒りが宿っている。



「会って間もない相手に軽々しく話す内容でもないと思います。同じ名前とか失礼極まりますし」


 

 自分がそんなことを言われたら穏やかな気持ちではいられないだろう。しかもそれが恍惚な表情を浮かべながらの明らかな嘘だとしたら、考えただけでそりゃもう・・・叩っ斬りてえな。そこへ居直れ。





*****   *****   *****   ***




 真理子さんはよっぽど腹に据えかねていたと見える。それはそうだ、自分の身に降りかかったことだと考えれば僕にもその怒りは理解できた。待ち伏せされて明らかに嘘ばかりの、その上つまらない話を偉そうに聞かされて挙句に支払いを押し付けられたのだから。それも一度ではない。どうして我慢しなければならないのか。





「市でやってる福祉施設に住み込みで働いてたのだけは本当みたい。審査の結果を連絡するからって書かせた連絡先がそこで、確かに在籍はしてたんだって」




 軍師・・・!そこは確認しておきたい話だった。仕事をしているのかと、居住について。何かある前に食止めるにはブッ込み…否、先回りして牽制をかける必要が出てくるかもしれない。


  















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 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面クライマックスで登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。



 ダサ1-climax











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